参院選の投開票日が近づき、各政党が支持アップに向けて、論戦を交わしている。2024年の衆院選で自民・公明が少数与党に転落し、「ねじれ」の行方に注目が集まるなか、話題になっているのが、新興政党の動きだ。各種世論調査を見ると、総選挙で躍進した国民民主党に続き、今回の参院選では参政党が伸びるのではとされている。
両政党に共通するのが、「ネット世論との親和性の高さ」だ。筆者はネットメディア編集者として、十数年にわたりSNSユーザーの動向を眺めてきた。その経験から考えると、ここに来ての“参政党ブーム”には、ある程度の納得感がある。
まず改めて、簡単に参政党を説明しよう。元大阪府吹田市議の神谷宗幣氏(現:党代表)らが2020年に結党し、2022年の参院選で神谷氏が初当選。公式サイトによると、国会議員5人、都道府県議7人、市区町村議143人の計155人が所属している。
党の主張としては、強い保守思想が特徴だ。2025年の参院選では「日本人ファースト」のキャッチフレーズをうたい、減税や子どもへの給付などに加え、「行きすぎた外国人受け入れに反対」「食糧自給率100%」「オーガニック給食を推進」といった政策を提言している。
また、憲法については「改憲」ではなく「創憲」のスタンスを打ち出し、5月には「国は、主権を有し、独立して自ら決定する権限を有する」(第4条)などの条文を盛り込んだ「新日本憲法(構想案)」を発表した。
そんな参政党が、参院選の選挙戦が伝えられるにつれて、存在感を増している。神谷代表らの発言を受けて、SNS上では支持者からの熱心な応援と、アンチからの激しいバッシングが飛び交っている。
なかでも注目されているのが、神谷氏が7月3日の街頭演説で行った「高齢の女性は子どもが産めない」発言だ。これには支持者から「当たり前のことだ」といった賛同のコメントが出る一方で、批判的なネットユーザーからは「女性蔑視だ」との声も絶えない。
なお、神谷氏はXで、これらの批判に対して「女性には適齢期があるから歳を重ねていけば出産ができなくなるのは生物として当然のこと。だから適齢期に出産できる社会環境を政治の力でつくろうと言ったことを叩く意味がわかりません」と反論している。
初めに言っておくが、筆者は参政党の支持者ではない。むしろ政策やスタンスは、ほとんど正反対と言っていいだろう。ただ、長年のSNSウオッチャーとしては、いまの時代に合った「うまい見せ方」をしているなと、主にマーケティング面で感心している。
昨今のSNSを見ていると、「キッパリした態度」と「対立構造」がウケる傾向がある。政治で言えば、元広島県安芸高田市長の石丸伸二氏が、市議への苦言を呈する「切り抜き動画」で人気を集めたのが代表例だ。
兵庫県の斎藤元彦知事が、その素質を問われながら“出直し選挙”を制したのも、「県政改革を止めるか、止めないか」を最大の争点にしたからだろう。ひとたびブレない姿勢が支持されると、寄せられるアンチコメントは、反対に「主張が正当である裏付け」として評価される。その結果、さらに存在感が増し、風が吹くのだ。
多くのSNSでは「その人に合った投稿」が、おすすめとして表示される。論点を明確かつ短くしつつ、リーダーシップを感じさせる表現手法は、その性質にピッタリだ。こうした背景を考えると、参政党はSNS時代の戦い方に合っている。
筆者はかねてから、SNS社会では「物語性」が重んじられていると感じている。その点、当初から「DIY(Do It Yourself)」を掲げ、政党の船出から躍進までをストーリーとして描いてきた参政党は、他党と比べて一日の長がある。
加えて、追い風となっているのは、「ボートマッチ」だ。いくつかの質問から、あなたの主張の近い候補者や政党を絞り込むボートマッチは、いまや大型選挙ごとの風物詩になった。
この試みは、政治に関心を持たせ、候補者の全容を伝える意味において、重要な存在である。ただ、あくまでこれは、きっかけに過ぎない。ほとんどの場合、多岐にわたる論点は「はい」「いいえ」「中立」といった選択肢に絞られて、質問そのものも20問程度となっている。
そのため「メディア側が争点と考えた項目」以外は、候補者・政党の公式サイトや選挙公報、政見放送などで、しっかり確認する必要がある。とはいえ現代人には時間がない。ボートマッチのみで投票先を決めることも珍しくなく、とくにスマートフォンに親しんだ若年層では、より顕著にその傾向が出てくるだろう。
その際にカギを握るのは、メディアが何を“争点”と位置づけるかだ。しかしこれは、各社報道を見ていれば、ある程度の傾向を読み取れる。今回であれば、「憲法(9条)改正」「選択的夫婦別姓/旧姓の通称使用」「同性婚」「防衛費」「女性天皇・女系天皇」「外国人労働者」といった項目が盛り込まれたボートマッチが多いが、どれも昨今のニュースを見ていれば、さもありなんという感じだろう。
ここで参政党の優位性が増す。「日本人ファースト」に代表されるように、強い保守色を打ち出しているため、各質問への賛否もまた、きっぱりとした態度になる。その結果、中道政党の回答は、相対的に「あいまいな態度」に見えてしまい、より主張の強い政党が「政権運営を担うべき存在だ」と支持されるのではないだろうか。
ボートマッチの注意点としては、主要争点に絞った質問のため、各政党の「独自色」が見えにくくなることも挙げられる。例えば参政党は、重点政策のひとつに「化学的な物質に依存しない食と医療の実現」を掲げ、「薬やワクチンに依存しない治療・予防体制強化で国民の自己免疫力を高める」などと訴えているが、ボートマッチ結果からは伝わらない。
こうした背景から、SNS上での人気は醸成されていったのだと考える。もちろん参政党は「地上戦」と言われる活動も力を入れている。参院選に初挑戦した3年前から、一気に150人の地方議員を輩出。今回の参院選でも全45選挙区に擁立している「足腰の強さ」は、ネット人気をリアルに波及させる原動力になっている。
ここまで「参政党がバズった背景」を考察してきたが、これは裏を返すと、ひとたび“時代の波”から外れてしまえば、その影響力を一気に失う可能性を秘めている。ネットユーザーは、熱しやすく冷めやすい。ストーリーの消費サイクルが激しく、数日単位でブームが入れ替わる。失望させないように、常に支持者に刺激を与え続ける必要がある。
すぐに“旬”が変わる例として、典型的なのが国民民主党だ。2024年10月の衆院選で、議席を4倍に増やす躍進を見せたが、翌月に報じられた玉木雄一郎代表の女性スキャンダルで潮目が変化。2025年5月には、参院選比例候補(予定)者による過去の言動が問題視され、公認基準の一貫性が問われた。
参政党に目を向けると、この“熱狂”を維持できるかが、今後のカギを握るだろう。それは参院選の17日間も例外ではない。参政党は公約として、「終末期の延命措置医療費の全額自己負担化」(公式サイトより)を盛り込んでいる。これについて、神谷氏が7月8日に「蓄えもしないと大変だと啓発する思いで入れた」などと発言したところ、「終末期医療が必要なのは高齢者だけではない」といった批判が相次いでいる。
発言に対する反発といえば、自民・鶴保庸介参院議員(今回は非改選)の「運のいいことに能登で地震があった」発言も話題だ。鶴保氏は謝罪するも、離党や議員辞職は否定。あくまで1議員の失言ではあるが、党執行部がキッパリとした態度を取らないとなれば、自民党全体のイメージダウンは避けられない。こうした票もまた、「モノ言う参政党」へと流れていくのだろう。
今回の参院選では、物価高などの要因から、「社会保険料をめぐる現役世代の負担増」も主要な争点だ。もし医療費負担を削減できれば、当然ながら“票”につながりやすい。しかし、どう削減するかの手法までは、ボートマッチで可視化されない。
参政党の成功により、今後は“短絡ルート”を攻略しようとする政党や政治団体も増えていきそうだ。そうなった時に重要なのは、有権者みずからの判断能力だ。ボートマッチ頼みにするのではなく、有権者一人ひとりが真剣に各政党の主張を比較検討しない限り、民主主義の成熟には、まだまだほど遠い状況と言えるだろう。
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(ネットメディア研究家 城戸 譲)