神奈川県横須賀市の自宅で2024年、介護中の妻を殺害したとして、殺人罪に問われた無職の男(85)の裁判員裁判で横浜地裁(安永健次裁判長)は16日、懲役3年、執行猶予5年(求刑・懲役5年)の判決を言い渡した。
判決によると、男は24年11月24日、自宅で妻(当時81歳)の首に帯を巻いて絞め、殺害した。その後、男は自ら110番し、自首した。
判決で安永裁判長は、妻の介護をしていた男が「将来に対する不安を増大させ、絶望的な気持ちになって確実に心中しようとした」と指摘。帯で絞めた後、二重にしたビニール袋を妻の頭にかぶせたことについても、「確実に殺そうという強固な意思があった」と述べた。
一方で、男が自首したことに加え、周囲を頼れない性格だったり、親族が高齢で遠方に住んでいたりするなど、心中という形で事態の解決を図ろうとしたことも「致し方のない面があったことは否めない」とし、執行猶予を付けた。
情状酌量を求める周辺住民ら822人の嘆願書
介護サービスを利用してもうまくいかず、親族にも頼れない。公判では孤立を深め男の境遇が明らかになった。
男は高校卒業後に自衛官となり、1969年に結婚。子供はおらず、2人で旅行に出かける仲むつまじい夫婦だった。妻は自宅で生け花の講師をするなどしていたが、コロナが流行し始めた2020年頃から自宅にこもりがちになった。この頃に介護も始まったという。
24年6月、男も脳梗塞(こうそく)と疑われる診断が下り、妻は「要介護1」の認定を受けた。自力での介護は難しくなったが、男は公判で親族について「普段から疎遠で頼ることも考えなかった」と述べた。
7月からケアマネジャーによる支援が始まった。犯行の1週間ほど前、妻は3泊4日のショートステイを利用したが、2日目に突然気を失い、帰宅した。先行きに絶望的な思いを抱えた男は11月24日、「これから楽になるからね」と、半世紀以上連れ添った妻の首に帯を巻き付けた。
「(自分にとって)できすぎの女房。ほとんどの人は(介護を)耐えてやってるのに、なんで俺は耐えられなかったのか」。被告人質問でそう後悔を語ったが、自治会活動などには積極的にかかわっていたという。事件後、情状酌量を求める周辺住民ら822人の嘆願書が提出された。救いの手は近くにあったのではないか。そう思わずにはいられなかった。(佐野真一)