精密機械製造会社「大川原化工機」(横浜市)を巡る捜査が違法と認定されたことを受け、警視庁は7日、公安部の捜査指揮系統の機能不全が誤った逮捕につながったとする検証報告書を公表した。立件に不利な消極要素の検討が行われず、幹部への報告も形骸化していたと総括。再発防止策もまとめ、逮捕した同社社長ら3人や関係者に「多大なご心労、ご負担をおかけした」と謝罪した。
警察庁と警視庁は、当時の公安部長ら捜査に関与した19人(退職者含む)について、処分や「処分相当」としたと発表した。
警視庁は2020年3月、軍事転用可能な噴霧乾燥機を不正輸出したとして、同社社長ら3人を外為法違反容疑で逮捕。東京地検が起訴したが、21年8月の初公判直前に取り消された。逮捕と起訴の違法性を認めた今年5月の東京高裁判決が確定し、同庁は6月から検証を進めてきた。
報告書ではまず、噴霧乾燥機を巡る輸出規制の省令に関する同庁の解釈について、経済産業省が疑問点を示していたことから、捜査を進めることの適否を公安部幹部も交えて慎重に検討すべきだったと指摘した。
同庁の省令解釈を前提に行った噴霧乾燥機の殺菌性能を調べる実験に関しては、捜査段階から十分な殺菌性能がなく、規制対象とならない可能性が浮上していた。報告書では、捜査員が上司の外事1課5係長らに追加実験が必要と申し出たのに歴代課長ら幹部に報告が上がらず、「立証上の重要な論点が幹部に認識されていなかった」とした。
訴訟では、捜査員3人が「(事件は)捏造(ねつぞう)」などと証言した。報告書は、係長が逮捕を第一に考えて捜査方針に沿わない証拠に十分な注意を払わず、課長は部下への指揮監督が不十分だったと認定した。
その上で、公安部長ら幹部も軌道修正できず、組織として「捜査の基本を欠いた」と判断。捜査運営を誤ったのは組織の側であり、捜査員による批判的な証言を訴訟の場で「壮大な虚構」と表現したことは不適切だったとして撤回した。
今後、公安部が扱う重大事件では部長ら幹部が参加する会議を開くほか、部内に「公安捜査監督指導室」(仮称)を新設し、事件の法令解釈や証拠収集のあり方などについてチェック機能を強化する。捜査員の相談や意見を受け付けるホットラインも開設する。
迫田裕治警視総監は7日午前、記者会見を行い、「公安部で組織的な捜査指揮がなされず、控訴審判決で違法とされた捜査を真摯(しんし)に反省している」と述べた。
最高検も東京地検の捜査の検証を実施。捜査が不十分なまま起訴したと総括する検証結果を7日午後にも発表する。
警察の信頼失墜、結果重く
検証報告書では、立件の判断が事実上、現場の係長らに丸投げされ、法令解釈もぐらついたまま逮捕に突き進んだことが明らかになった。大川原化工機の社長ら3人は長期間の勾留を強いられ、元顧問は保釈されないまま死亡した。結果は重く、当時の警視庁公安部幹部らの責任は免れない。
事件を捜査したのは、大量破壊兵器に関連した不正輸出事件を扱う公安部外事1課5係。こうした事件は端緒を得るのが難しいとされ、摘発件数は平成以降、8件にとどまっていた。
報告書は、捜査主任官の係長が逮捕を第一に考え、不利な証拠に目を向けなかったとした。係長や上司の管理官はこの分野の「エキスパート」だったとされるが、公安部幹部らは詳しい報告を求めず、課長は後任への十分な引き継ぎも行わなかった。ずさんな捜査が放置されていた事実に、がくぜんとした。
そもそも、起訴が取り消された段階で、検証を行えなかったのか。信頼を失った影響はあまりにも大きい。(警視庁キャップ 井上宗典)