先の大戦により海外などで亡くなったとされる日本人約240万人のうち、現在でも約112万柱の遺骨が回収されていない。戦後80年が経過して遺族や当時を知る現地住民が減少する中、遺骨収集を「国の責務」とする政府は2029年度までを集中実施期間として回収を急いでいる。
国の遺骨収集事業は1952年に始まった。現在は16年施行の戦没者遺骨収集推進法に基づき、「日本戦没者遺骨収集推進協会」(東京)に海外での情報収集や現地調査などを委託している。未回収の約112万柱のうち、中国や北朝鮮など相手国の事情で収集が困難なものは約23万柱、海に沈んでいるものも約30万柱あるとみられる。厚生労働省は残る約59万柱が収容可能とみているほか、20年にはダイバーらの目に触れる可能性のある遺骨を収集する方針を決めた。
ただ、時間の経過とともに当時を知る人が少なくなり、調査に必要な情報も集まりにくくなっている。また、コロナ禍による調査中断や、ウクライナ侵攻によるロシアとの関係悪化の影響も受けた。そこで政府は、昨年度までだった収集の集中実施期間を5年間延長した。
一方、19年にはシベリアから外国人の遺骨を誤って持ち帰っていたことが判明。取り違えが指摘されていた597柱のうち約7割が日本人の可能性が低いとの鑑定結果が出た。同様の誤りはフィリピンでも確認された。
同省は20年、「戦没者遺骨鑑定センター」を省内に設立。22年には遺骨のDNA鑑定を行う独自の分析施設を設置して、鑑定事業を強化している。
それでも、昨年度に鑑定した938件のうち、身元を特定できたのは36件だった。鑑定には遺族からの申請が必要だが、故人を知る遺族自体が減少している上、遺骨が劣化して鑑定できない場合もあるという。同省は「ご遺族にできるだけ早く、一柱でも多くの遺骨をお返ししたい」として、鑑定の実施を呼び掛けている。 [時事通信社]