子どもへの性暴力防ぐフランスの現状~小児性愛者からの相談受ける専門窓口も

フランスでは子どもへの性暴力を防ぐため、教員や医師らに研修を行う公的なセンターが全国にあり、またそれとは別に「小児性愛」の人が性暴力を起こしそうだといった不安を相談できる公的窓口もあるということです。フランスの実情についての講演会を取材しました。
フランスでは、子どもへの性暴力加害者や性的に問題がある行動を見せる子どもを早期に見つけて、支援などにつなげるよう、教員や警察官などに研修を行う公的なセンター(CRIAVS=クリアヴス)が全国各地にあり、これは2006年、保健省が設置したものだということです。クリアヴスで働く専門家、セバスチャン・ブロショ氏が来日し13日、埼玉県内で講演会を行いました。
クリアヴスは教員、児童福祉の教育担当者、宗教関係者や警察官、医師などへの研修のほか、病院などでの対応の支援、性暴力予防キャンペーン実施、教員ら専門職向けに性的同意を学べるゲームなどを開発し無料提供、性暴力に関する研究の支援なども行っているということです。
クリアヴスは「加害者に対応する専門職のためのリソースセンター」の略称ですが、この講演会の通訳を務めたフランス在住の子ども家庭福祉研究者、安發明子(あわあきこ)さんによりますと、センターの主な活動は「性加害をした大人」のケアを担うためというよりは、子どもの段階で性的問題行動をするケースに周りの大人たちが早めに気づき、必要な場合には、その子どもを専門家による治療などにつなげることだということです、子ども時代など早い段階で性的な問題を抱える人を見つけ、排除するのではなく、適切にケアすれば、子どもへの性加害を減らせるといった考え方です。
性的な問題行動をする子どもが全て性加害者になるわけではないものの、性加害者の多くが性的問題行動について適切な対応がされなかった背景があるとわかっているということです。教員などは、子どもたちが示す性的問題行動とは何か、どういう場合に専門家につなげる必要があるのかといった知識を十分に学ぶことが重要で、そのためにクリアヴスが研修や啓発を行います。フランスには「子どもと若者の性的行動」といった冊子があり、それぞれの年代の子どもが見せる性的な行動や関心について、発達段階にふさわしいもの、心配なもの、専門家の助けが必要なもの(その子ども自身が性に関して混乱している可能性があり、専門家によるケアなどが必要)がわかりやすく区分けされて示されています。
ブロショ氏は講演の中で、フランスでは、子どもに持続的に性的関心を持つ「小児性愛」(ペドフィリア)と実際に性的な加害をする「小児性犯罪」(ペドクリミナリテ)を区別してとらえていると説明しました。そして、小児性愛者が、「自分が犯罪を起こしそうだ」などと不安を抱く場合、相談できる公的な専用窓口(STOPという名称)があり、医療機関の紹介など含め支援を受けられるということです。
ブロショ氏によると、小児性愛になる原因はわかっておらず、男性の3~6%、女性の1~3%いるとされ、性的な対象が特定の年齢に非常に限定される場合と子どもと大人両方を対象とする場合があるということです。そして、重要な点として、小児性愛であることは本人が選んだことではない、大多数は子どもへの性加害行為をしないと考えられていることをあげました。ブロショ氏は「子どもへの性的な気持ちを持つかどうかは選べないが、どう行動するかは選ぶことができる。小児性愛者は助けを求められる(相談)場所を知っておくべき」と述べ、そうしたことが子どもへの性暴力を防ぐことになるということです。
ブロショ氏は、性的な好奇心や衝動は、成長過程で自然に出てくるもので健全なことだとした上で、日本人向けに、炊飯器にたとえて解説しました。米を炊く際、蒸気(性衝動)はコントロールされつつ、外に安全に放出される必要があり、無理にではなく、適切な形で抑制、受容する必要があると強調しました。そして大人は家庭や学校、児童養護施設などあらゆる場所で、子どもが性への好奇心を持って質問してきた場合、丁寧に答える姿勢が必要で、子どもに関わる職業に就く人や親は性教育の研修を受け、説明できるようにすべきだと話しました。そして、子どもや思春期の若者が、性暴力にあったり、ポルノへの接触、早期に性的対象にされる、などがあると感情面や性的機能が混乱するリスクがあるとして、性暴力はもちろん、児童ポルノなども放置しないようにし、それらが起きた時は、被害者であれ加害者であれ、できるだけ早く適切な支援が必要だということです。
フランスでは、3歳から「心理的社会的能力」を育成するということです。これは性的関係だけでなく、人間関係全般に必要な力で、感情のコントロール、共感性、人間関係の築き方などを学ぶもの。この能力がないと、暴力をふるう、または相手の期待に応えなくてはと思い込み、被害を受けるリスクも高まるということです。
性暴力は、大人と子どもの間だけでなく、思春期のカップルでも起こるということです(望まない性的な接触や性行為など)。しかし、若者自身がそれを「暴力」だと認識できないこともあるため、パリ市は全ての子どもに、どこまでが良好な関係で、どういったことが「暴力」にあたるのか、具体的な行動を一覧にした細長い「スケール(定規)」形のパンフレットを配布しているということです。
ブロショ氏は、性暴力を防ぐための考え方として、1+1=1ではなく、1+1=3だと説明しました。性加害者の多くやDVを経験しているカップルは、1+1=1、つまり相手との関係性の中で自分を見失い、相手と自分がいっしょくたになっている状態だといいます。しかし、実際には、自分と相手は別の人間で、境界があり、それぞれが違う気持ちを持っている。さらに周りには社会や制度、法律といった大きな枠組みがあり、それらが適切な境界や限界を示してくれる。それが自分と相手、それに社会、あわせて「3」だととらえる考え方だということです。
自分と相手が一体化して区別がないと、相手の感情がわからず、相手に何をしても構わないという感覚になるほか、逆に、相手の期待に応えないといけないと思い込み、いやだと言えないことにもつながるということです。こうした関係を脱するには、まずは自分が誰なのかを考え理解する、すると「相手は自分とは別だ」とわかるということです。子どもであれ、大人であれ、ひとりの人間として「私自身として存在する」ことを学ぶのが重要だということです。
ブロショ氏は親子関係についても言及。フランスでは性行為がなくても、「近親姦的な空気」の家庭があるという理論を1980年代に、ある精神科医が打ち出したということです。「近親姦的」とは、子どもに自分の立ち位置が与えられず、家族それぞれの関係性が曖昧で、個々人の境界線も曖昧な状態を指し、多くの性加害者がこうした家庭環境で育った経験があると指摘しました。ブロショ氏は、集団を重んじる日本と個人主義が過剰なフランスでは感覚が異なることに理解を示した上で、集団に属しながらも自分自身の個や境界を保つことが大切だ、と強調しました。
今後、日本でも、子どもへの性暴力を防ぐため、日本版DBS(性犯罪歴がある人が子どもに接する職業に就けなくなる仕組み)の導入や初犯を防ぐための研修を学校や保育園などで職員向けに行うことなどを含む新たな制度が施行されます。講演会で通訳と背景の解説も行った研究者、安發(あわ)明子さんは、日本テレビの取材に対し、「フランスでは、教師などに研修を行う公的センター=クリアヴスはフランス保健省が設置しているため、考え方が統一されている。今後、日本で研修を各現場に任せると質にばらつきが出る恐れがあり、国が一定の内容を示す必要があるのではないか」と指摘しました。

【記事資料】(安發明子さん提供) ・暴力定規 ・性的 問題行動について知り、対応する