ビジネスホテル大手「東横イン」(東京)が発行する無料宿泊券の偽造品が出回っている。7月には松山市の男性(49)がフリマアプリ「メルカリ」で2枚購入したところ、偽物が送り付けられ、代金1万5千円をだまし取られたと愛媛県警に被害を相談した。同社によると今年5月ごろから偽物の持ち込みが相次いでおり、フリマでの売買を多数確認。運営事業者に取り扱い中止を求めているものの、対応は取られていない。国民生活センターは「フリマサービスのトラブルは当事者間で解決するのが原則。受け取り評価前に商品をよく確認してほしい」と呼びかけている。
不自然な日本語
「現物を見た瞬間、『やられた』と思った」
詐欺被害にあった松山市の男性は、「無料宿泊券」として送られてきたプラスチック製の偽造カードを手に憤る。
券の裏面に書かれている利用方法を見ると「水イント」(本物はポイントと記載)、「デラッタスシングルル」(デラックスシングル)、「フロントベ」(フロントへ)など不自然な日本語が並ぶ。表面もバーコードやロゴの文字が若干ぼやけている。
県外への出張が多い男性は、自身も東横インの会員。本物の宿泊券を何度も使ったことがあるため、偽造品と一目で分かったという。
男性は7月28日、フリマアプリ「メルカリ」で出品者から「東横INN 無料宿泊券2枚」と書かれた商品を1万5千円で購入した。郵送された商品を確認したところ、券面の日本語表記が不自然だったため自宅近くの東横INN松山一番町に持ち込み、偽物と発覚した。
ただ、今年2月に別の出品者から7枚5万6千円で購入した際は本物だったことから、今回は中身を確認する前にアプリ上で受け取り評価をしてしまったという。「軽率だったが、それ以上にこんな品でも偽物が出回っているとは思いもしなかった」と振り返る。
出品者と連絡がとれず、男性はメルカリに事情を説明したところ、被害額全額が返還された。
相当数が流通か
東横インによると、宿泊券の正式名称は「東横インバウチャー」。同社では会員が10泊すると1泊無料になるサービスを行っており、希望者にはカード型の無料宿泊券を発行している。
担当者によると、同社は今年5月ごろから偽造品の存在を把握。件数は非公表だが「相当数が持ち込まれている」と明かす。いずれも粗雑な作りでチェックイン前に偽物と判別できるため、使用に至ったケースはなく、利用客との大きなトラブルも発生していないという。
宿泊券は転売禁止で、券面にも明記。ただ、担当者は「本来、会員の友人や家族が宿泊する際もサービスを受けられるようにと発行しており、厳密な管理は難しい」と打ち明ける。同社は偽造品が出回っている状況を踏まえ、6月にメルカリに対し取り扱い中止を要請。8月14日付で自社ホームページに転売禁止と偽造品への注意喚起も掲載した。
ただ、サイト内では8月に入っても複数の出品者が宿泊券を販売しており、根本的な対策は取られていないのが実情だ。東横インは宿泊券が「現金、金券、カード類」の売買を禁止するメルカリの規約に抵触するとし、改めてメルカリ側に取り扱いの中止を求めた。
過去に禁止事例
メルカリを巡っては、日本マクドナルドホールディングスの株主優待券の偽造品が確認され、取引の安全性を確保できないとして8月21日以降、出品と販売を禁止した経緯がある。メルカリは東横インの宿泊券について、産経新聞の取材に対し「東横イン側と今後の対応方針について引き続き議論を重ねている状況」とコメントした。
国民生活センターは「フリマサービスは個人間の取引のため、トラブルが起きた際は当事者間での解決が原則となる」と説明。「購入者が受け取り評価をすると出品者に代金が支払われ、評価後は出品者と連絡が取れないことや運営会社のサポートが受けられないケースがある」とし「利用規約などをよく理解し、送られてきた購入品をよく確かめてから受け取り評価をしてほしい」と呼びかけている。(前川康二)