2025年7月の参院選で自民党が惨敗したにも関わらず、8月に入ってから石破茂首相の支持率が上昇するという奇妙な現象が起きている。
大手メディアの世論調査では高齢者からの支持率が高い一方、若者からは低いという世代間の温度差が見られる。特にSNS上ではアンチ石破の声が根強く、その背後には参院選で躍進を果たした2つの政党の影が見える。
「石破辞めるな」デモには野党支持者も参加
NHKは8月12日、石破首相の続投について賛成が反対を上回ったとする世論調査の結果を発表。年齢層が高くなるにつれて「続投賛成」の割合が高くなっていた。この発表にX(Twitter)は大荒れ。「平気で嘘をつく石破応援団」「ネット使わんと60歳以下の声は拾えんぞ」「無意味な調査をして世論誘導すんな」などのコメントが殺到した。
だが、SNSでの石破叩きの動きとは対照的に、大手メディアの世論調査では石破首相の支持率は軒並み上昇している。8月24日に報じた読売新聞に至っては、前回より17%も上昇となった。NHKと同様に、高齢者が石破支持、若者は不支持という傾向が出ている。
また、異例とも言える「石破辞めるな」デモには与党支持者だけでなく、野党支持者も参加していた。石破首相が退陣することで、右派的な主張が強い高市早苗氏が次の首相に就くことを警戒した動きとみられ、リベラル・左派層も石破首相の続投を求めるという異様な現象がみられる。
立憲民主党の小沢一郎衆院議員は参院選後の7月23日に事務所のXアカウントから、石破おろしに動く自民党の裏金議員らを「どの口が言うのか」と非難。共産党の小池晃書記局長も8月28日の記者会見で、自民党の石破おろしの動きを「国民不在の党内抗争としか言いようがない」と述べた。いずれも石破首相ではなく、自民党内の反石破勢力を批判するという、野党としては異例とも言える反応となっている。
この現象を分析する上で興味深い情報がある。毎日新聞が8月24日に報じた世論調査では、立憲民主党、日本維新の会、共産党の支持者では石破首相について「辞任する必要がない」が上回ったとする一方、国民民主党、参政党、れいわ新選組の支持層では「辞任すべきだ」の方が多かったという。
岸谷蘭丸「めちゃくちゃっすよ」
Xで「石破」と検索すると、8月31日に計画されているという「石破辞めろ」デモに参加を呼びかける投稿が表示される。これらのアカウントには一定の割合で、オレンジ色の絵文字が目立ち、プロフィールには「参政党支持」「安倍総理のアンチはブロック」などの文言が記されている。
また、X上では、排外主義的な主張で一定の支持を獲得した元迷惑系YouTuberへずまりゅう氏、元実業家の井川意高氏らが石破首相を執拗に叩いている。元官僚の室伏謙一氏や京都大学大学院教授の藤井聡氏ら、参政党に好意的な論客も石破首相の批判を続けている。
国民民主党の玉木雄一郎代表も、SNS上で一部野党による「石破辞めるな」の動きを非難。8月20日には、俳優の岸谷五朗氏を父に持つインフルエンサー岸谷蘭丸氏のYouTubeチャンネルに出演し、
と、立憲民主党を暗に批判した。岸谷氏も「(石破首相の方が)マシとか言い出しますからね」「めちゃくちゃっすよ」と同調し、国民民主党が若者の支持を獲得したことに「次の選挙では、もはやインフルエンサー側に政党が頭を下げて寄ってくる時代になる」と語った。
若年層を中心に、SNS上で高まるアンチ石破の声。この傾向とほぼ一致するのは、参院選の投票先だ。躍進した国民民主党は20代での得票割合が最も多く、参政党は特に30代から多くの支持を獲得していた。いずれの政党にも共通するのは、SNSで高い拡散力を誇っていたことだ。そして、若い世代ほどSNSを参考に投票先を決める割合が増えることも、大手メディアの世論調査で示されている。
これとは対照的に、支持者に「石破辞めるな」の傾向がある立憲民主党や社民党、共産党などは、参院選で高齢者からの支持が大半を占めた。SNSの情報を信じる若年層と、旧来型の政治行動が残る中高年層で、石破首相の評価を巡る分断は顕著になっている。