耐震性能の不足が指摘されている国宝・松本城の耐震補強案が明らかになった。松本市は、天守のほぼ全体に鉄骨フレームを入れ、約80年後の大改修につなげる。今年度中に基本設計に入り、2028年度以降の着工を目指す。工期は数年に及ぶ見込み。その間、天守内の観覧はできないため、市は、工事の特別見学などを検討している。(山口正雄)
耐震補強案によると、5重6階の天守には、1階から5階まで鉄骨フレームを垂直に入れる。さらに1階と4階部分にダンパー(制震装置)を設置し、6階の土壁を補強する。
工期について、臥雲義尚市長は「2、3年ではできない。相当の年月がかかる」と述べ、長期にわたるとの見通しを示している。
松本城の5棟は14~16年度に行った耐震調査で、震度6強以上の大地震が発生した場合、「乾小天守(いぬいこてんしゅ)」は「倒壊」、「天守」「辰巳附櫓(たつみつけやぐら)」「月見櫓(つきみやぐら)」「渡櫓(わたりやぐら)」の四つは「倒壊の可能性」と診断された。このため市は17年に外部有識者を交えた専門委員会を設け、工法を練ってきた。
「姫路」「犬山」「彦根」「松江」を含む国宝5城のうち、松本城は唯一、平地に築かれた「平城」。地盤も扇状地で軟弱なため、天守のほぼ全体に鉄骨フレームを使うこととした。最も倒壊の危険が高い乾小天守に加え他の建造物についても、鉄骨フレームで補強する方向だ。耐震補強工事では、5棟の基礎構造の補強のほか、劣化した屋根瓦のふき替えや漆喰(しっくい)の補修も併せて行う考えだ。
松本城は、1950~55年に、「昭和の大修理」と呼ばれる天守の解体修理工事が行われた。文化庁によると、「木造文化財は、150年周期の解体修理が望ましい」とされており、次の大改修は2105年頃となる。鉄骨フレーム補強は、約80年後までの「つなぎ工法」で、木材や壁を傷つけないよう取り外せる状態にするという。
松本城の昨年1年間の来場者数は前年比約10万人増の約98万人で、このうち外国人は過去最高の19万人を超えた。上高地に次いで国内外から人が訪れる松本の観光拠点となっている。