山口組分裂10年、「抗争終結」宣誓書に警察「一方的な宣言にすぎない」…警戒続ける

全国最大の指定暴力団・山口組(神戸市灘区)が分裂して10年が過ぎた。警察当局の取り締まり強化や暴力団排除運動の高まりで、神戸山口組(兵庫県稲美町)との対立抗争は沈静化しつつあり、組事務所の閉鎖も相次ぐ。ただ、銃を使った事件は近年も発生しており、警察当局は警戒を続けている。
山口組は2015年8月27日に分裂し、離脱した組長らが神戸山口組を結成した。その後、神戸山口組からは任山口組(現・絆會(かい)、大阪府寝屋川市)と池田組(岡山市)が離脱した。警察庁によると、分裂以降、4団体が関連する抗争事件などは24年末までに165件発生。19年には銃撃で組員が死亡する事件が相次いだ。
警察庁は20年以降、山口組と神戸山口組などを暴力団対策法に基づく「特定抗争指定暴力団」に指定。警戒区域内で、組員5人以上での集合や組事務所への立ち入りを禁じた。
住民らの暴排運動もあり、かつて兵庫県淡路市にあった神戸山口組の本部事務所は17年、「暴力団追放県民センター」が住民に代わって使用差し止めを求めた代理訴訟で仮処分が認められ、その後、売却された。尼崎市内でも13年に8か所あった暴力団事務所が22年9月にゼロになった。運動に携わった男性は「抗争が怖くて子どもを外出させられないとの声もあった。元に戻ることのないよう機運を保ち続けたい」と話す。
年10件以上起きることが多かった抗争事件は、24年は3件にまで減少。準構成員らを含めた勢力は15年末時点で山口組1万4100人、神戸山口組6100人だったが、傘下組織の離合集散もあり、24年末には山口組6900人、神戸山口組320人となった。
ただし、最近も銃を使った事件は起きており、神戸市長田区では23年、ラーメン店主だった山口組系組長が射殺された。警察内部では、神戸山口組の弱体化が進む一方、「追い詰められた構成員が何をするか分からない」との見方がある。
今年4月には、山口組幹部らが県警本部を訪れ、「抗争を終結させ、今後は一切のもめ事を起こさない」とする宣誓書を提出した。しかし、県警の小西康弘本部長は同18日の署長会議で「対立抗争は終結する兆しが見えない」と述べ、警戒を続けるよう呼びかけた。
県警幹部は、「特定抗争の指定を外してほしいのだろう。宣誓書は山口組の一方的な終結宣言にすぎない」と分析する。1980年代に起きた山口組と一和会の「山一抗争」では、抗争終結宣言後に襲撃事件が起きたため、「抗争が再び激化することは否定できない。慎重に動向を見極めていく」と語った。

離脱組員「トクリュウ」に
全国の暴力団勢力は近年、減少しているが、警察当局は離脱した組員が「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」とつながって犯罪を続けるケースもあるとみている。
2011年までに全国で暴力団排除条例が施行され、暴力団員は銀行口座や携帯電話が持てなくなった。山口組分裂後、警察の取り締まりはさらに強化され、組員の離脱が相次いだ。
ただ、15~24年に警察などのサポートで組から離脱した約5000人のうち、社会復帰支援を受けて就労できたのは264人。警察当局は、離脱した組員らが特殊詐欺などを行う「トクリュウ」のメンバーになっているケースを確認しており、資金の一部は暴力団に流れているとみている。
龍谷大矯正・保護総合センターの広末登嘱託研究員は「実態を解明するため、警察は部署ごとの垣根を取り払い、あらゆる情報を共有・分析する必要がある」と話す。