ツキノワグマによる襲撃被害が後を絶たない。それも山深い森でなく、人里に下りてきたクマが人を襲うケースが多発している。
7~8月、東北や北関東では、農作業中や在宅中だった住民が被害に遭う事例が相次いだ。秋に入って冬眠に備えるクマだが、特に東北では9月以降も人里に出没する恐れが高まっているとして、林野庁や自治体が注意を呼びかけている。
背景にあるのが、クマが暮らす森で観測された「ある現象」だ。
被害55件、最近10年で最多ペース
環境省によると4~7月、クマによる人身被害は全国で55件あった。ここ10年の同期比では、最も多かった2023年度の56件に並ぶペースだ。
8月にも福島市や秋田県大館市で人が襲われて負傷する事故があった。群馬県警によると、31日には長野県境の嬬恋村で渓流釣りをしていた男性(45)が襲われ、顔をひっかかれて23針を縫う大けがをしたという。
命を落とすケースも複数起きている。
岩手県北上市では7月4日、女性(81)が自宅に侵入してきたクマに襲われて死亡。北秋田市の障害者施設でも7月31日、入所する女性(73)が襲われて亡くなった。
いずれも、普段から人が暮らす生活圏で起こっている。
2年ぶりの「大凶作」
9月以降も餌を求めて人里に出てきたクマとの遭遇に注意する必要がある。
東北では今秋、クマの主な餌となるブナの実が2年ぶりに「大凶作」になると予測されている。
予測は東北森林管理局が毎年出しており、調査対象の東北5県(福島県以外)全てで大凶作が見込まれるのは、今と同じ調査を始めた04年以降では2年ぶり2度目という。
ブナは豊作の翌年が凶作になり、おおむね5~6年周期で豊作になるとされる。
大凶作だった23年度は、クマによる人身被害が全国で219件(死者6人)と最近10年で最も多かった。その半数以上に当たる111件が9、10月の2カ月間で起きていた。
今年は「親子グマ」の可能性高く
森林総合研究所によると、ツキノワグマが人里や市街地に出てくる頻度は、山にあるブナやドングリ類の「なり具合」が関係しているといわれる。
特に、ブナの実が豊作だった翌年には「親子グマが人里に出没する可能性が高い」という。豊作の年に十分な栄養を蓄えたメスが冬眠中に出産するためだ。
24年は青森県で四半世紀ぶりに豊作となるなど、各県で並作や豊作の年になった。
そもそも、クマは00年ごろから出没数が増え、駆除数は増加傾向にある。クマ自体の個体数が増えている可能性が指摘され、生息域も広がっているという。森林総研は、クマと人の生活圏が「隣接するようになってしまった」と説く。
9月1日には、人の生活圏でクマやイノシシが出た場合に備え、市街地でも市町村の判断で猟銃の使用が可能になる改正鳥獣保護管理法が施行された。
クマに襲われれば大けがをする可能性は高く、命を落としかねない。森に暮らすクマと街に暮らす人はどう共存するか、警戒と試行錯誤は続く。【春増翔太】