京都市の市道で7月、自転車と接触しかけた市営バスが急ブレーキをかけ、乗客の女性が転倒して骨折する事故があった。事故を巡ってSNSで話題を呼んだのが、京都府警が道交法違反(ひき逃げ)などの疑いで自転車の運転手への捜査を開始したとのニュースだ。府警は自転車とバスとの接触はなかったが、自転車の動きが事故を招いたとみて周辺の防犯カメラなどを捜査。平らな道が多い京都市内では自転車による同様の危険な走行が増えているといい、警戒を強めている。
逃げたスポーツタイプの自転車
7月23日夕、京都市上京区の市道。約35人の乗客を乗せた市営バスが走行中、急ブレーキをかけた。車内で手荷物を持って立っていた女性(57)がはずみで転倒し、病院に搬送された。女性は左鎖骨を折るなどの重傷だった。他の乗客にけがはなかった。
京都府警によると、バスのドライブレコーダーに、歩道から飛び出してきたスポーツタイプの自転車がバスに接触しそうになる様子が写っていた。現場は片側2車線の緩やかなカーブ。道路には、自転車の通行動線を知らせる「自転車ナビマーク」が設置されていた。
府警はバスの運転手からの通報を受けて捜査を開始。府警は、道交法違反(ひき逃げ)などの容疑で自転車の運転手の行方を捜していると明らかにした。
直接的な接触はなかったが、「ひき逃げ容疑」は成立するのか。
運転手の認識、焦点
自転車事故に詳しいデイライト法律事務所(福岡市)の鈴木啓太弁護士は「非接触であっても、何らかの要因でけがをされた人がいれば交通事故として扱われる」と説明する。救急車の要請や警察への連絡などの義務を果たさないまま立ち去ると、いわゆるひき逃げなどの容疑で立件される可能性があるという。
一方、今回のトラブルに関しては、自転車の運転手の「認識」が重要なカギを握るとの見方だ。 非接触の事故で相手のけがを認識できない可能性がある場合は、救護義務違反(ひき逃げ)が成立しない可能性がある。 「今回の事案が立件されるかは『客観的な判断』として、(運転手が)相手のけがを認識できたかが問題となるだろう」(鈴木弁護士)。その上で一般論として「誰かにけがさせたかもしれないという場合は、一度停車して状況を確認することが重要だ」と述べた。
自転車行き交う古都
地形が平坦(へいたん)な京都市中心部は移動が容易なこともあり、日常的に多くの自転車が行き交っている。
しかし古都のメインストリートである四条通と河原町通の一部区間は、時間帯によって自転車の通行が禁じられていることを知らない観光客は少なくない。30年以上前から存在するとされるルールだが、近年はレンタサイクルの利用者による違反が後を絶たないという。
立命館大名誉教授、塚口博司氏(都市交通計画)の話
自転車の強みは便利さだ。速度規制や進入禁止などの強行的な規制を敷くことは望ましくない。車、自転車、歩行者の三者が共存するためには譲り合いの精神が重要になる。締め付けるのではなく、意識づけに注力してもらいたい。
例えば、車と人の共存を目的に1970年代ごろから整備されてきた「コミュニティー道路」という存在がある。ハンプ(凸部)やクランクなどを設けて車の速度を抑制し、重大事故を防ぐ目的がある。自転車の共存にも同様の速度抑制の概念を取り入れることは必要だ。しかし、全国の道路がすべてコミュニティー道路に置き換わってはいないように、統一的な整備を進めることは簡単ではない。
土地に合わせた道路整備をしながら、見通しの悪い交差点やバス停周辺などの事故が多発する場所、そして自転車専用通行帯の途切れ目など道路状況が変化する場所。こうしたポイントに標識などで注意喚起を行うことが効果的だ。交通空間の『再分配』には他者に配慮し、折り合いをつけることが重要ではないか。(小野田銀河)