立憲の党勢を削ぐ「元凶」は党内にいた…政権交代の正念場に「周回遅れの政治」で党を「ぶっ壊す」国会議員の名前

7月の参院選で22議席と、現有維持にとどまった立憲民主党。他の複数の野党が議席を伸ばしたこともあり、8月26日にまとめた参院選の総括文書は、選挙結果を「事実上の敗北と言わざるを得ない」と明記した。原案の「勝利することができなかった」から大きく「敗北」に寄せている。「野田佳彦執行部は敗北を認めよ」という党内の突き上げを受け、修正を余儀なくされた形だ。
「常に気を引き締めるべきだ」と言うのなら、それも一理あるだろう。だが、この党の場合「敗北の総括」は党を強化するどころか、かえって弱体化を招いてきた。「総括」が常に、党内抗争という後ろ向きのエネルギーを生むことに使われているからだ。
理由を考えると、どうしても突き当たるのが「壊し屋」小沢一郎氏の存在だ。
「政権さえ取れれば理屈はどうでも良い」と、党の政治理念をねじ曲げさせる。他の野党との選挙協力を重視するあまり、自らの党の成長を阻害する。結果として党が弱体化すれば、新たな「神輿」を求めて「執行部おろし」をけしかける。それをメディアが無批判に持ち上げ、非執行部系議員による無責任な執行部突き上げに追い風を吹かせる。
いい加減にしてほしい。小沢氏が新進党、民主党に続き、3番目の野党第1党たる立憲民主党まで壊しにかかるなら、看過できない。小沢氏は、もはや自分自身が「政権交代可能な政治」の阻害要因となっていることに、そろそろ気づくべきだ。
参院選における小沢氏の最大の罪は「消費減税を公約に掲げさせた」ことだ。今年2月、党の総合選挙対策本部長代行でもあった小沢氏は、消費減税について「食料品だけではない。もっと大きくやらないとダメだ」と主張し、党内の「消費減税論争」を焚きつけた。党が5月に参院選の公約に「食料品の消費税率を原則1年に限りゼロ」という方針を打ち出すと「効果が疑わしい」と露骨に不満を示した。
立憲は昨秋、野田氏を代表に選んだ党代表選で、消費減税をめぐって4人の候補が論戦を交わし、減税に最も慎重だった野田氏が代表に選ばれた。この1カ月後に行われた衆院選で、立憲は消費減税を掲げることなく選挙戦を戦い、50議席増の躍進を果たした。自民、公明の連立与党が過半数割れを起こしたため、立憲の国会での存在感は大きく増した。
消費減税問題は、党内手続き的にも、総選挙での民意の審判の点でも、次の代表選までは決着がついている問題のはずだった。
だが、小沢氏にそんな理屈は通じない。小沢氏らの突き上げで党内融和を無視できなくなった野田氏が消費減税に言及し「ぶれる」形となったことで、立憲のコアな支持者や、自民党に代わる責任政党を求める無党派層の支持が崩れ、衆院選で「躍進」した党の勢いを食い潰した。少なくとも筆者はそうみている。
筆者は消費減税を主張する政党の存在を否定しているわけではない。それを望む国民がいるからだ。政権を担う責任を負わない中小政党が、消費減税を望む国民が抱える生活の苦しさを代弁し、国会で政府に伝える役割を果たすことには意味がある。
だが、政権の中核となることを求められる責任政党、つまり自民党と立憲民主党は、中小政党と同じ役割に甘んじてはいけない。国民の痛みを受け止めつつ、安易に大きな税収を失うことができない現実を見据え、給付付き税額控除のような別の策を駆使して痛みの軽減を図るべきだし、それを国民に誠実に訴えるべきだ。
まして立憲は、新自由主義から脱却して「公」の役割を拡大し、再分配によって格差縮小を図ることをうたう政党だ。それが自民党との対立軸でもある。その政党が消費減税を言えば、党が訴えるすべての政策の実現性が疑われ、有権者の信用を失いかねない。
もはや立憲は、その他の中小政党とは役割が全く違う。にもかかわらず消費減税を叫ぶのは、せっかく衆院で「2強多弱」の状況を作り出し、責任政党の立場を確立しつつあるのに、その果実を自ら手放して中小野党と同じ立場に「降りる」、即ち政権交代を諦めることと同じだ。小沢氏はそれを理解していない。
消費減税だけではない。小沢氏のもう一つの問題は「野党が一つにまとまる」ことへの固執である。
小沢氏は8月5日のBS11の番組で、1993年に非自民7党1会派による細川政権を発足させた時のことを振り返り「(細川護熙首相が代表を務めた)日本新党は野党第1党ではなかった。(野党が)自民党を下野させなければいけない、という思いでまとまった」と指摘。「今の野党も、みんながまとまる人を立てよう、と言えば(政権交代は)できる。野田氏が最初から『(首相指名選挙で)僕に投票してよ』と言えば誰も投票しないが『国民のために政権を作ろう』と呼びかければいい」と主張した。
あげく「(首相候補の)腹案はあるか」と問われ「あります。総理の器かどうかは別として」とまで言い切った。
さすがにあ然とした。一つは、いまだに「全野党がまとまれる」という「神話」を信じていること。もう一つは、立憲民主党以外から首相候補を出す可能性を、平然と肯定したことだ。
55年体制下と今では、野党各党のマインドは全く違う。現在の中小野党の一部は、平成の野党再編をさまざまに経験していて、必ずしも「政権交代で自民党から政権を奪う」というマインドを共有していない。自民党の弱体化を機に連立の枠組みが拡大し、自ら与党の一員になることを暗に狙う政党や政治家もあるし、自民党もそれを承知で各党に触手を伸ばしている。
小沢氏は同じ番組内で「(内閣)不信任案を出したら、他の野党が反対や棄権をすることはあり得ない」と述べていたが、昨秋の衆院選の後、日本維新の会や国民民主党が、首相指名選挙の決選投票で棄権する、というみっともない戦術を選んでまで、石破茂首相誕生をアシストしたのを忘れたのだろうか。
こんな状況下での立憲の政権戦略は、小沢氏が活躍した平成初期の政権戦略とは全く異なる。小沢戦略は今の立憲民主党には使えない。
細川政権による1度目の政権交代では、理念も政策もバラバラな中小野党を無理やり連立政権にまとめた影響で、わずか8カ月で瓦解した。その反省から、民主党政権による2度目の政権交代では、初めから一つの党として政権獲得を目指したが、今度は所属議員の理念も政策もバラバラなままだったので、最後は政権そのものが空中分解した。
これらの反省から、立憲民主党が目指す3度目の政権交代は「理念と政策において一定のまとまりを保った」一つの政党が中核となり、政権を奪うことを模索している(すべきだ)。
超弱小の野党第1党だった枝野幸男代表時代は、他の野党との連携も一定程度必要だったが、昨秋の衆院選で与党が過半数割れするなかで議席を伸ばし「2強多弱」の状況を生み出した現在は、その戦略はむしろ邪魔だ。今後は自民党と対峙するだけでなく、他の野党の議席も吸収して、党が単独でさらに議席を増やすことこそ必要だ。
「野党はまとまれ」から構築される小沢戦略は、この時代にはもう古いのだ。
小沢氏は消費減税を前面に打ち出させたことで、党の最大の「武器」である基本理念に傷を付けた。さらに他党との選挙協力を重視するあまり、自らの党勢拡大にブレーキをかけている。それだけでも相当に問題なのに「立憲ではなく、他の中小野党(または無所属)から首相候補を用意する」可能性にまで言及したのには、あきれてものも言えない。
小政党の党首が首相についた1993年の細川政権も、翌94年に自民党が社会党の村山富市氏を首相に担いだ村山政権も、中選挙区時代の最後のあだ花のようなものであり、あれを当然だと思うのはおかしい。
首相候補とは、政権担当能力を持つ2大政党の党首であることが原理原則だ。首相候補を出したいなら、中小政党は自前で内閣を作れる議席を獲得し、野党第1党の座を勝ち取った上で、その党首として首相に名乗りを上げるべきだ。
そんな原理原則も無視した小沢氏の政権戦略は、百歩譲って一瞬の政権獲得に成功したとしても、細川政権のように容易に瓦解するのは明白だ。過去の失敗を現在の野党に押しつけ、せっかく一から育てた野党第1党を、再び空中分解させかねない。
そんな小沢氏が今、参院選「敗北」の責任をすべて野田執行部に押しつけている。小沢氏は7月31日に野田氏と会談し、党の選挙対策本部長代行の辞職願を提出しつつ「代表をはじめ執行部に大いに責任がある」「(次期衆院選は)極端に言えば全滅しかねない」と、まさに極端なことを言い立てて党内政局をあおった。
自らが辞職願を出すことで「野田おろし」の引き金を引いた小沢氏は、メディアが「党内に執行部の刷新を求める声も」と書き立てるのを見て、ほくそ笑んでいるのだろう。
野田執行部のここまでの対応に問題なしとは言わない。少なからぬまっとうな批判や党の改善策が各方面から出ているのも承知している。だが、敗戦の原因を作った側が執行部おろしに走るさまは、裏金議員たちが「石破おろし」に奔走する自民党と、何も変わらないと言わざるを得ない。
くどいようだが、立憲の参院選の結果がどんなにパッとしなかったと言っても、石破政権がそれ以上にひどく崩れているため、国会での立憲の力は相対的に強くなっている。議席を伸ばした他の中小野党に目を奪われているメディアを見ているだけではわからないだろうが、立憲はいついきなり政権を任されるはめに陥るかわからない、厳しい環境に置かれている。
そんな厳しい状況にあるのに、立憲の党内では民主党時代から30年間見せつけられてきた、古色蒼然たる党内政局がよみがえりつつある。もううんざりである。党だけならいざ知らず、日本の政治全体の漂流を招きかねない。それこそ政権交代を真面目に考えていない「万年野党」の振る舞いそのものではないだろうか。
参院選の総括を受け、立憲は来週党役員人事を行うという。この人事が、無責任な消費減税を旗印にして、理念がバラバラな野党各党を無理やりひとまとめにしようとする小沢一郎的「平成の政治」に立憲を追いやることのないよう、心から願う。
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(ジャーナリスト 尾中 香尚里)