「必ず手術成功」「満足度99%」など違法な医療広告が横行…「違反」1000サイト超、厚労省確認

虚偽の広告や誤解を与える広告などを禁じた医療法に抵触するとして、医療機関のウェブサイトが厚生労働省から改善を求められるケースが後を絶たない。昨年は1000サイト超の違反が確認された。違法な広告は患者の選択を誤らせて健康被害を招く恐れがあり、同省は監視を強化している。(柏原諒輪)

「1本1万~2万円で痩せられる注射。細い人でも痩せられた」。東京都内の30歳代女性は数年前、美容医療クリニックのサイトで、こんな説明文と施術前後の写真を発見。効果に期待し、何度かクリニックに通って注射を計5回受けた。
しかし、効果はなく、うち数回は副作用で高熱が出た。女性は苦情を訴えて返金を求めたが、「効果には個人差がある」などと拒否されたという。女性は、「広告を信じ切った自分も悪いが、だまされたような気持ちで悔しい」と唇をかんだ。
医療法は医療機関の広告について、リスクや副作用などの説明が不十分な「ビフォー・アフター写真」や治療効果に関する患者の主観に基づく「体験談」の掲載、「患者様満足度99%」といったデータの根拠がない表示などを禁じている。
規制の対象は従来、屋外看板やチラシ、テレビCMなど、望んでいない人の目にも触れる媒体が中心だった。美容医療を巡る消費者トラブルが増えたことなどを受けて医療法が改正され、2018年6月から医療機関のサイトが規制を受けるようになった。対象は「患者の受診を誘引する意図があり、医療機関や医師の名前が特定できること」で、医師によるSNS発信やユーチューブ動画も含まれた。

違法な広告を見つけるため、厚労省は「ネットパトロール」に力を入れる。医療法に抵触する可能性の高いキーワードで検索するほか、外部からの通報で違反サイトを割り出し、医療機関に改善を要請している。
同省が把握した違反サイトは近年、年1000サイト前後で推移。23年度は1098サイトで計6328か所の違反を確認した。内訳は、「歯科」が374サイト1959か所、「美容」が362サイト2888か所、「がん」が68サイト346か所と続いた。
改善要請に応じない医療機関については、所管する自治体に連絡。自治体は立ち入り検査を行うなどし、行政指導したり、中止や是正を命じたりする。命令に従わない悪質なケースは捜査機関に告発し、6月以下の拘禁刑か30万円以下の罰金が科されることもある。

ただ、自治体が立ち入り検査などに踏み切るケースは年数件程度にとどまる。その結果、対応にバラツキが生じ、一部の自治体からは「指導しようとしても、医療機関から他県や他の機関との対応の差を指摘されてしまい、厳格な対応が難しい」との声が上がる。
自治体が及び腰なのは、専門的な対応が必要なうえ、前例が極端に少ないことが影響しているとみられる。厚労省は昨年8月、指導や措置の実施手順書のひな型を作成。各自治体に配布し、積極的な対応を促した。同省の担当者は「ネットパトロールの監視態勢を今年度は強化した。自治体とも連携し、引き続き対策を進めていきたい」と話す。
情報の見極め 患者側も必要

患者や家族の相談に乗っている認定NPO法人「ささえあい医療人権センターCOML(コムル)」(東京)の山口育子理事長は「国は自治体に指導を促すとともに、具体的な指導事例を集約して示し、実効的な取り締まりにつなげるべきだ」と指摘。一方、患者自身が医療や健康に関する情報を読み解く力である「ヘルスリテラシー」を向上させる必要があると強調し、「違反広告を見極められるよう教育の充実なども重要だ」と話した。