渡良瀬遊水地で増えたイノシシ、南下し田んぼに被害拡大の恐れ…新たな餌場求め川伝いに移動か

イノシシが田んぼを荒らす被害が埼玉県加須市内で増えている。4~8月にわなで捕獲されたイノシシは16頭で、すでに昨年度(15頭)を超えた。市北部にある「渡良瀬遊水地」で増えた個体が出没しているとみられ、市は対応に追われている。(西部悠大)
8月上旬の早朝、同市栄の大谷寿男さん(57)が自身の田んぼに、直径1メートルほどの穴があるのを見つけた。餌のミミズを探したり、泥浴びをしたりするため、イノシシが掘り返した跡とみられる。
周囲の稲は倒れて汚れてしまい、商品にならない。大谷さんは「よく育ってくれた大事な稲で、本当にがっかり。利根川の河川敷などでさらにイノシシが増えないか不安」と表情を曇らせた。

シカやイノシシによる獣害被害に取り組む、渡良瀬遊水地連携捕獲協議会によると、遊水地で2024年度に生息が確認されたイノシシは1044頭で、22年度(488頭)から2倍以上になった。広大なヨシ原が広がる遊水地は、植物の根などの餌が豊富で、隠れる場所が多い環境が増加の要因とみている。
野生生物研究所ネイチャーステーション代表で、農林水産省の農作物野生鳥獣被害対策アドバイザーも務める古谷益朗さんは、遊水地で増えたイノシシが「新たな餌場やすみかを求めて移動しているのでは」と推測する。時期にもよるが、オスは基本的に単独で、メスは子どもたちと一緒に川などをつたって移動していくという。
市では、米ぬかやサツマイモなどを餌にして、イノシシを誘い込む「箱わな」を設置している。これまでにイノシシが捕獲されたのは遊水地に接する市北部の北川辺地域で、荒らされた田んぼもこの辺りに集中している。
遊水地の北東に位置する栃木県小山市では24年度、前年度より20頭多い、261頭のイノシシを捕獲。南東にある茨城県古河市では8頭多い16頭を捕獲したという。

加須市内では24年度、34アールの田んぼがイノシシに荒らされたとみられる。今年度は被害がさらに拡大する可能性がある。市は市議会9月定例会に補正予算案を提出した。殺処分の費用などを確保する方針だ。
市の担当課は「イノシシの隠れ場所を減らすために草刈りをしてほしい。余った農作物は外に放置しないで」などと呼びかけている。
農水省によると、23年度の県内の鳥獣による農作物被害額は8168万円。埼玉スタジアム2002公園(さいたま市緑区)の広さほどの約33ヘクタールの農地が荒らされるなどしたという。
◆渡良瀬遊水地=関東平野のほぼ中心に位置し、4県にまたがる約3300ヘクタールの日本最大級の遊水地。大雨時に河川の水を一時的にため、洪水を防ぐ役割を持つ。鳥獣保護区で、キツネやタヌキ、タカの仲間などが生息している。