原告「私たちに時間ない」 水俣病熊本訴訟、福岡高裁で控訴審開始

水俣病被害者救済特別措置法(特措法)に基づく救済を受けられなかった熊本、鹿児島両県などの住民ら約140人が、国と熊本県、原因企業のチッソに損害賠償を求めた集団訴訟の控訴審第1回口頭弁論が17日、福岡高裁(久留島群一裁判長)であった。住民側は、請求を棄却した1審・熊本地裁判決を取り消し、全員を水俣病と認めて賠償を命じるよう訴えた。国と県、チッソ側は控訴棄却を求めた。
2024年3月の熊本地裁判決は、25人を「水俣病に罹患(りかん)している」と認めたが、いずれも発症から20年以上が経過して損害賠償請求権が消滅しているとして請求を棄却。それ以外の原告については、手足の感覚障害に対する地元医師らの診断書が「信用性に乏しい」などとして水俣病と認めなかった。住民側が控訴した。
17日は住民側弁護団の川辺みぎわ弁護士らが意見陳述し、地元医師らの診断書について「感覚検査の方法は独自の手法ではなく、一般的な神経学的検査で行われ、水俣病の検診でも長年用いられてきた方法を採用している」として熊本地裁判決に反論した。手足などに感覚障害がある原告団長の森正直さん(74)=熊本県水俣市=は「原告団の平均年齢は75歳を超え、私たちには時間がない。なんでこんな体に生まれたのか、親や自分を責め続け、悩み続けてきた。水俣病によるものだったと認めて、苦しみから救い出してほしい」と声を詰まらせながら訴えた。
同種の訴訟は全国4地裁で起こされ、東京を除く、大阪、熊本、新潟の3地裁で1審判決が出た。熊本地裁が請求を棄却した一方で、23年9月の大阪地裁判決は原告128人全員を水俣病と認め、請求権が消滅する「除斥期間」の起算点を発症ではなく診断時期として、国などに賠償を命じた。24年4月の新潟地裁判決も原告の一部を水俣病と認め、除斥期間を「著しく正義・公平の理念に反する」として適用せず、原因企業のみに賠償を命じた。【森永亨】