ふるさと納税の利用が急増している。仲介サイトを通じて寄付すると買い物に使えるポイント還元サービスが9月で終わることから、「駆け込み寄付」が起きているためだ。自治体からは10月以降の利用減の懸念や、制度見直しを求める声が出ている。(峰啓、杉尾毅)
宮崎県都城市内のコールセンターでは今月26日、ヘッドセットを付けた約15人のスタッフが、同市のふるさと納税の利用を尋ねる電話の対応に追われていた。「年末以上の忙しさです」。センターを運営する「シフトプラス都城本店」の森園愛副所長は繁忙ぶりを説明する。
返礼品に宮崎牛や焼酎をそろえる同市は、寄付額の全区市町村1位に何度もなるなど人気寄付先だ。関連業務を受託する同社によると、例年、寄付や問い合わせは年末が近づくにつれて増える。今年は今月上旬に跳ね上がり、1~25日に対応した電話とメールは例年の約3倍という。
サーモンなどの返礼品が並び、2024年度の寄付額が全国2位の北海道白糠(しらぬか)町も、8月の寄付額と申込件数が前年同月比3倍弱に。9月は4倍(25日時点)を超えている。
ふるさと納税は、自治体の返礼品情報を一覧でき、寄付手続きも行える仲介サイトの利用が一般的だ。サイト運営会社は仲介手数料が入る。利用を増やすため寄付額に応じてポイントを還元している。
制度を所管する総務省は、「サイト間でポイント付与(還元)による競争が過熱している」とルールを改正し、10月1日から還元を禁止することにした。これを前に各サイトは還元率引き上げなどをしたため、駆け込みがヒートアップした。「ふるなび」は7月下旬から還元の上限を最大50%から100%にするキャンペーンを展開。運営会社によると、寄付金額、件数とも前年より増えている。広報担当者は「ルール見直し前にできる限りの利益を利用者に還元したい」と話す。
福岡県糸島市の自営業女性(61)は還元率アップを知り、7月に新潟県魚沼市に寄付した。返礼品は高値が続くコメを選んだ。「自治体を応援でき、家計にも優しいのが制度の魅力。(還元禁止で)庶民の生活の助けが減ってしまう」と不満そうにつぶやいた。
還元禁止に対する受け止めは、自治体によって様々だ。
ホタテやイクラの返礼品が人気の、寄付額全国5位の北海道別海(べつかい)町。集めた寄付は漁業の振興や人材育成に充ててきた。9月の寄付額も20日時点で43億円超で前年の2・5倍以上という。松本博史・総合政策部長は「サイトを介した寄付が減ってしまう」と顔を曇らせ、「自治体の官民連携に逆行した対応ではないか」と批判した。都城市ふるさと納税課は「禁止の影響は10月以降にならないと何とも言えない」と述べるにとどめた。
一方、24年度に298億円の税収が流出した横浜市は、「返礼品目的の寄付が目立ち、ポイント還元がそれを加速させていた。本来の趣旨に戻るきっかけになってほしい」と語り、理解を示した。
総務省は今後も、サイトや自治体にふるさと納税の制度趣旨に沿った運用を求めていくとしている。制度に詳しい法政大の平田英明教授は、「応援より返礼品で寄付先を決める傾向は強い。還元を禁止しても、(傾向は)変わらないだろう。一部自治体への寄付の偏りも顕著で、制度の根幹を見直すべきだ」と話した。
脱「返礼品競争」ルール改正
ふるさと納税は、お世話になった地域への恩返しを理念に、2008年度にスタートした。自治体に寄付すると、2000円を引いた額が所得税と個人住民税から控除される。自治体は寄付を自主財源にできる。
利用は増え続け、総務省によると、24年度の寄付総件数は5878万7000件、総額は1兆2727億円。東京都などを除く99%超の自治体が参加している。
一方、豪華な返礼品に寄付が集中するなど、「返礼品競争」「官製通販」との批判は絶えない。同省は、制度が本来の趣旨に沿うよう、19年6月に返礼品と関連経費の合計を「寄付額の5割以下」に設定。23年10月には、仲介サイト会社への手数料は全て関連経費として扱うことを明確にするなど、ルール改正を頻繁に行っている。(池田寛樹)