焼けるような激痛に呼吸困難も…有毒「アカカミアリ」上陸を阻止できない輸入大国の弱点

特定外来生物の有毒アリ「アカカミアリ」が全国の港などで過去最多ペースで発見されている。今年7月には神戸市内の港で約1千匹が見つかった。貨物にまぎれて侵入したとみられる。ヒアリより毒性は弱いが、刺されると焼けるような痛みに襲われ、アレルギー反応によるアナフィラキシーショックなどを引き起こす。増え続ければ人的被害にとどまらず、日本の生態系に重大な影響を及ぼす恐れがあり、関係機関は警戒を強める。
海外貨物に紛れたか
アカカミアリは、アリの一種で米南部から中南米にかけて分布。赤茶色で体長は3~8ミリ。頭部は大型で、四角い形状なのが特徴だ。今年7月15、17日には、神戸市のポートアイランドと、六甲アイランドのコンテナヤードでそれぞれ見つかった。ポートアイランドでは、中国・大連からの貨物を開封した際にコンテナ内で発見。コンテナヤードを含め約800匹が確認された。六甲アイランドでは、同様にフィリピンからの貨物のコンテナ内とコンテナヤードで約160匹が見つかったという。
神戸市によると、周辺への拡散はなかった。さらに一般人の立ち入りが禁じられた区域のため、人的被害もなかったという。市は、殺虫剤入りの餌(ベイト剤)をまく対策を施した。担当者は「水際対策をしっかりとしていきたい」と話す。
刺されるとアナフィラキシーショックも
もし刺された場合、20~30分程度は安静にしては体調に変化がないか注意する。刺された場合はアナフィラキシー症状で呼吸困難などを引き起こすことさえある。容体が急変したときは救急車を呼ぶか、すぐに医療機関を受診し、「アリに刺されたこと」「アナフィラキシー症状の可能性があること」を伝える。
アカカミアリの発見は各地で報告されている。 環境省によると、統計を取り始めた平成29年以降、令和6年の1年間は過去最多となる33例が確認された。今年は1~8月で、神戸市内だけでなく、東京都内、大阪市内、神奈川県内などでも17例が報告され、すでに昨年を上回るペースで推移している。
国は、数年前から国内で発見事例があるヒアリなどとともに蔓延(まんえん)した場合、生態系に重大な影響を及ぼす恐れがある「要緊急対処特定外来生物」に指定している。
輸入大国・日本、外来生物対策の難しさ
なぜアカカミアリの発見事例が増えているのか。
生物学者で、国立環境研究所生態リスク評価・対策研究室の五箇(ごか)公一特命研究員は増加の背景は「日本の貿易体制にある」と指摘する。五箇氏によると、日本には60以上の貿易港があり、日々外国からの多くの貨物が運び込まれている。「日本は輸入大国のためオーストラリアやニュージーランドのような厳格な外来生物対策を実施することが難しい」。
ヒアリの9割は中国南部の貨物にまぎれて侵入したとみられるのに対し、アカカミアリの侵入ルートは様々な国や地域を経由している。五箇氏は、アカカミアリが日本に侵入した場合、人的被害のみならず生態系にも影響があると危機感を示す。アリ類を含む昆虫類や爬虫(はちゅう)類など在来の小動物への影響による生態系システムの攪乱(かくらん)が予想されるという。
五箇氏は、各国が外来生物の侵入阻止のみならず、自国から出さないよう努力をする強制力を伴うシステムの構築が急務だとし、「国際的な枠組みや条約の整備が必要だ」と訴える。
そのうえで「まずは日本が輸入依存国であることを自覚し、輸入に伴って危険な外来生物も流入し続けているのだということを考えてもらいたい」と語った。(浦柚月)