日本維新の会との連立によって発足にこぎつけた高市内閣。論功行賞色もありつつ、高市氏とは距離のある議員も登用し、党内の各方面に一定の配慮を見せた人事となった。そのなかでも注目は、総裁選で高市氏に次ぐ2位となった小泉進次郎防衛相。未来の首相を目指すうえで経験を積むことが求められる彼にとっては、安全保障分野の重要ポジションだが、諸刃の剣ともなりそうだ。
〈画像〉進次郎大臣が4歳のときに撮った、父・純一郎氏、兄・孝太郎氏との3ショット
「生まれ育った横須賀は防衛の街」出身地のゆかりアピールも、心配の声
進次郎氏は21日、さっそく首相官邸で記者団の取材に応じ、「私の生まれ育った横須賀は防衛の街」「自衛隊と大変つながりの深い環境で生まれ育ち、政治家の活動を続けてきた」と、出身地と防衛のつながりをアピールした。
確かに彼は、2023年には衆院安保委員会の与党筆頭理事、2024年には安全保障委員長も務めるなど、安全保障分野においても一定の経験を積んできた。だが、進次郎氏のこれまでの外交・安全保障に関する発言をひもとくと、不安の声も。
進次郎氏は昨年の総裁選で、記者から中国訪問の経験を聞かれた際に「台湾には行ったことがあります。中国にはありません」と発言。中国と台湾の微妙な関係を踏まえると、中国について聞かれて台湾を持ち出すのはセンスがない。これには自民党の中からも「首相になってこんな発言をしたら、国際問題になりかねない」とあきれる声があがったのだ。
また、カナダでのG7をめぐっては「(カナダの)トルドー首相は就任した年は43歳。私は今43歳」と、「自分が首相に就任したら同い年での就任」とアピール。北朝鮮による日本人拉致問題についても「首相になればトップ同士、同世代」と、金正恩総書記との「同年代」を強調。
「同世代」ということを主張するばかりで、外交・安全保障分野について具体的な政策をほとんど語らなかったことから、今回の防衛相就任も「ボロが出ないといいが…」(自民党関係者)と不安視されているのだ。
「ポスト高市」レースには不利? 手足を縛られ…
政界きっての政策通として知られ、外交・安全保障にも詳しい高市氏だが、なぜ能力が不安視される進次郎氏を防衛相に起用したのだろうか。全国紙政治部記者はこうみる。
「まずは『挙党体制』『党内融和』を演出するためでしょう。総裁選では当日まで進次郎氏が本命とみられていたくらい、進次郎氏を支持していた議員は多かった。それだけに進次郎氏を重要閣僚に就け、『進次郎派』にも一定の配慮をした形です。
また、中国や韓国もタカ派の高市首相を警戒しているなか、自身に近い議員を防衛相にするよりは、タカ派色の弱い進次郎氏を就けることで、各国を刺激しないねらいもあるとみられます」
首相の座を目指す進次郎氏にとっても、避けて通れない安全保障分野の経験を積むという意味で、望ましいポストといえそうだ。
だが防衛相を務めるということは、諸刃の剣でもある。
「防衛相は北朝鮮から飛ばされるミサイルへの対応、災害時の自衛隊の対応など危機管理対応が求められるポジションです。それだけになかなか東京を離れづらい。一方で海外出張も多くあります。総裁選で課題となっていた党員票の掘り起こしはしづらいのではないでしょうか。
党内基盤が十分でない高市氏としては、総裁選で2位になった進次郎氏の“次”に向けた動きは脅威。進次郎氏を身動きの取りづらいポジションに置き、ポスト高市に向けた動きを封じようとするねらいもありそうです」(同)
高市首相も石破前首相も、無役の時期や党の役職を務めていた時期に地方での講演会や選挙の応援に回っていた。その際にできた地方議員や党員とのつながりが総裁選での党員票獲得に生きたが、防衛相の立場ではそうはいかないというのだ。
国会答弁では、野党の格好のターゲットに?
さらに、高市内閣の防衛相ならではの難しさもある。高市氏は就任直後の記者会見でさっそく、政府が2022年に策定した安全保障3文書の前倒し改定を指示する方針を表明。防衛費を含む安保関連費の増額を目指すとみられている。
「立憲も高市氏のタカ派政策を批判し、防衛費増額については国会で積極的に取り上げるでしょう。進次郎氏の不安定な答弁を引き出したいと考え、年明けの通常国会の予算委員会でもターゲットにするかもしれない。先月の総裁選では安全運転に徹した進次郎氏ですが、たび重なる野党からの質問攻勢に再び『進次郎構文』で答えてしまったら、何度もその場面がテレビで流れてしまいます」(同)
防衛相は農水相時代の「備蓄米放出」のように国民にとって分かりやすく、生活に直結するテーマに取り組むことも少ない。大臣の仕事を通じて人気を集めるのにも限界があり、進次郎氏にとっては「いかに減点をしないか」が重要になりそうだ。
環境相時代は「気候変動のような大きな問題は、楽しくかっこよくセクシーであるべきだ」と発言していた進次郎氏。「国家存立の崇高な任務」と語る防衛相の職務も、セクシーにこなせるだろうか。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班