秋葉原で静かに進行する「中国化」のリアル

かつて“オタクの聖地”と呼ばれた秋葉原が、いま静かに姿を変えつつある。ここはもはや日本メーカーの“牙城”ではない。アニメやゲーム広告に電気街──その街を象徴する風景の裏で、勢力図が塗り替わりつつある。
本記事は『ニッポン華僑100万人時代』より一部抜粋・再編集。変貌するアキバの最前線に、日経記者が迫る。
※登場する取材協力者の肩書や年齢は取材当時のものです。
オタクの聖地を中国席巻
日本を象徴する街の姿が大きく変わり始めた。アキバから、上野アメ横、道頓堀に至るまで。「日本らしさ」が全国から静かに消えつつある。陰の主役は「中国」だ。
【グラフを見る】秋葉原を訪れるインバウンド客の国別人口
「秋葉原へようこそ!」。1日20万人超もの乗客が利用する、JR秋葉原駅。その駅の表玄関である中央改札に向かうと、正面から次々と美少女キャラクターの広告が現れ、アキバファンを出迎える。
改札を抜けると、今度は全長30メートルもの大型ビジョンに、女子高生風のアニメキャラクターが次々と登場する。ファンの気持ちをこれでもかと高ぶらせる駅構内は今、「完全なアキバワールド」(20代の日本人男性)だ。だが、この広告主、実はすべて日本企業ではない。「秋葉原駅中央改札をジャックする」。そう豪語し、2024年春から派手な宣伝を仕掛けてきたのは、新進気鋭の中国企業だった。
上海に拠点を置くスマートフォン向けのゲームメーカー、上海悠星網絡科技――。日本では「Yostar(ヨースター)」の名称で展開し、日本のアニメファンを次々と虜(とりこ)にしている。ゲームプレイヤーが教師役となり、美人学生たちと学園ドラマを楽しむゲーム「ブルーアーカイブ」や美少女ゲーム「アズールレーン」などを配信し、人気を呼ぶ中国メーカーだ。
JR東日本は現在、全国の主要駅を中心に、駅を従来の「交通拠点」から「新たなビジネスを創発する拠点」へと転換を進めている。2024年からは、秋葉原駅をモデルケースとし、「圧倒的インパクトを創出する」場として、駅構内に大型ビジョンと店舗スペースを一体化させた空間を企業側に提供。その第1弾で、アキバの世界観に合致しているとして選ばれたのが、中国企業のヨースターだった。同社が用意した広告費は1年間で3億円を超える。
「ヨースターは、ゲームキャラクターの見た目が特にかわいいです。ゲームのクオリティーも日本のものと変わりません」。駅構内で出会った大阪府在住の男子大学生、吉田成孝さん(22)も、そう興奮気味に話してくれた。就職活動で上京したついでに、秋葉原駅構内にあるヨースターの公式販売ショップに立ち寄り、グッズを買い求めに来たところだったという。2年前、友人の勧めでヨースターのゲームを始めて以来、「すっかりその魅力にはまってしまった」。
アキバのあちこちに出現「実は中国」な企業広告