今年に入り、暴力団関係者が自宅などに隠し持っていた拳銃を、警視庁が相次いで摘発している。暴力団に関係する拳銃の押収量は近年、銃器の規制強化などを背景に低調に推移しているが、捜査当局内部では、摘発は「氷山の一角」で、暴力団が拳銃の管理を厳格化するなどして隠し持っているとの見方も根強い。警察は突発的に抗争や内紛に使用される可能性にも警戒している。
住宅に眠る拳銃、組織の武器保管担当か
茨城県坂東市の田園地帯に立つ、一見変哲のない2階建て住宅。9月30日朝、警視庁薬物銃器対策課の捜査員は、住人が薬物事件に関与しているとの情報を基に家宅捜索に入った。
屋内の収納から出てきたのは、米国製のE28型自動装填(そうてん)式拳銃や、中国製の自動拳銃「トカレフ」。それらの拳銃に適合する実弾計34発も押収した。このうち、米国製の拳銃は発砲が可能で、殺傷能力があると確認された。トカレフは一部が故障していたが「久しぶりの押収」(捜査関係者)という。
「保管していたものですが、すべて私の所有物に間違いありません」
銃刀法違反で現行犯逮捕された住人は、北関東を中心に縄張りを持つ住吉会系3次団体の組長代行の男(62)。押収品は「護身用」と説明したが、捜査関係者は、男が組織の「武器」の保管担当だったとみている。
警視庁は今年に入り、9月末までに暴力団の関係先から計7丁の拳銃を押収。前年は「ゼロ」だったが情報提供などで摘発が相次いでおり、暴力団と拳銃の強固な結びつきが改めて浮き彫りとなっている。
「加重所持罪」「発射罪」銃刀法改正で厳罰化
警察庁の統計によると、昨年、全国で押収された暴力団関連の拳銃は24丁。平成26年には104丁が押収されており、10年間で4分の1程度に減じている。20年前の16年は、300丁以上の押収があった。
減少の理由として、銃器に対する規制や罰則の強化が挙げられる。銃刀法は平成5年の改正で、拳銃と適合する実弾を共に携帯する「加重所持罪」が設けられ、7年には公共の場所などで発射した場合の「発射罪」が新設されるなど厳罰化が進められてきた。
拳銃の所持を巡り、指定暴力団の最高幹部に責任が波及したケースも影響しているとみられる。
17年には、指定暴力団山口組の篠田健市(通称・司忍)6代目組長がボディーガードに拳銃を持たせた銃刀法違反(共同所持)の罪で懲役6年の実刑判決を受けた。
暴力団に詳しい関係者は「抗争が起きても銃器を使わずに、別の方法で(相手の組を)脅す場合もある」としており、拳銃の使用については組織内部にも一定の警戒感が広がったとみられる。
「一般の組員は武器の倉庫を知らない」
ただ、暴力団が〝戦争の道具〟と呼び、かつて大量に押収されてきた拳銃の管理状況などの実態は不明で、規制強化で監視が強まる中、取引がより潜在化している可能性が指摘されている。
拳銃の摘発では、暴力団内部や近い人物からの情報提供が重要な手がかりになることがあるが、捜査幹部は「武器の担当は組長に信頼がおかれた幹部のみ。一般の組員は武器の倉庫を知らない」と説明。「巧妙に隠していて、表に上がってこないだけかもしれない」と警戒する。
拳銃の押収量が低調となる中で、過去には、いったん収束したかに見えた発砲事件が、再燃した年もあった。山口組が分裂した平成27年、暴力団関係者による発砲事件は8件だったが、翌28年は17件に跳ね上がった。
ある捜査関係者は、暴力団がらみの拳銃摘発の意義について、「実際に抗争が起きれば拳銃が用いられ、発砲事件は起きる。内紛や抗争への警戒は緩められない」と力説する。