「なんで16歳の女の子がこんな酷い死に方を…」トー横女子(16)が被害届まで出した“DV彼氏”との心中に辿り着いてしまった理由

2023年3月、新宿歌舞伎町の「トー横」に通っていた女子高生のあきこさん(当時16)が、横浜市内で自ら命を絶った。
「彼氏と一緒でした。心中なのですが、(警察の)扱いとしてはお互いがお互いを殺した“殺人事件”の被害者になっています」
あきこさんの父親の浩三さん(42)は、駆け付けた病院での変わり果てたあきこさんとの対面をそう振り返る。
娘がどうして死を選んだのか……。理由を知るためにトー横に通い、独自に調査を始めた。多くの若者たちと接する中であきこさんを取り巻く人間関係を知り、自殺に至るプロセスが明らかになっていった。浩三さんの話を聞いた。
浩三さんは会社員で、妻と3姉妹の5人暮らしだった。あきこさんは長女。生まれた頃、一家は横浜に住んでいて、歌舞伎町とは全く縁のない人生を送っていた。
「幼い頃はいつもニコニコして、笑顔が絶えない子でした」
浩三さんは、亡くなったあきこさんについてそう振り返る。
中学3年で「卒業後は一人暮らししたい」と
あきこさんに異変が起きたのは中学生の頃だ。中学1年生の夏休みを終えたあたりから不登校になった。
「不登校のきっかけは今でもよくわかっていないんです。いじめなどハッキリしたきっかけがあったわけではなく、学校に仲の良い子はいました。普通の市立中学ではありましたが、学力も平均的でした。先生との関係も特段悪かったわけではないと思います。妻も『どうしてかわからない』と首をかしげています」
とはいえ年頃の女子ということもあり、父・浩三さんとの関係は良好とは言い難かった。
「中学校を不登校気味になってからは喧嘩することも増えていました。朝起きられなくなる『起立性調節障害』になったのですが、夜更かしをしていたので、『夜早く寝て、朝遅刻してもいいから、起きて学校に行け』と言ったりしたためです」
中学3年になると、あきこさんは「卒業後は一人暮らししたい」と話すようになった。両親は「お金のこともあるし、高校までは家から通って卒業してから一人暮らしすればいい」と説得したが、あきこさんの意志は強かった。中学を卒業すると、親族の協力で都内にある管理人常駐の学生寮で一人暮らしをすることになった。
2022年3月に中学を卒業すると、4月からあきこさんは定時制高校に通い始めた。そして同時期に、トー横にも通いはじめたという。
「中学卒業後はあきこの祖母、つまり私の母が主に面倒を見ていて、私はほとんど連絡を取っていませんでした。家にいる頃も、あきこの口から『トー横』という言葉を聞いたことはなく、自殺した後にあきこの友人に聞くまで、『トー横』に通っていることは知りませんでした」
あきこさんが一人暮らしを始めて9カ月後の2023年1月、浩三さんの母の仲介で、浩三さんとあきこさんの距離が少し縮まる出来事があった。
あきこさんから「(浩三さんと)会いたい」という話が出て、実家で久しぶりに向き合う時間を作ったという。そのとき、交際相手のAも紹介された。
「あきこから『付き合っている人がいる』と聞かされ、AとLINEで少し話しました。『お付き合いさせてもらっています』と挨拶してくれて、こちらも『そうなんですね』という、なんということもない会話だったと思います。通話だったので顔は見ていませんが、会ったことがあるという私の母は“不良っぽい金髪のにいちゃん”だと教えてくれました」
16歳の娘に交際相手がいることは不安ながら嬉しい気持ちもあったが、2月頃にAがあきこさんに暴力を振った事件が発覚して状況は一変した。
「あきこさんが暴行を受けて警察署で保護しているので迎えに来て欲しい」
「新宿警察署の生活安全課から連絡があり、『あきこさんが暴行を受けて警察署で保護しているので迎えに来て欲しい』と言われたんです。暴行を受けたのは新宿にあるラブホテルより安い時間貸しのレンタルルームで、Aから殴られる、蹴とばされるなどの被害を受けた、と。急いで車で新宿に向かいました」
警察署につくとあきこさんは大きなけがもなくほっとしたが、Aに対して「法的に制裁をしてやる」という怒りが湧いてきたという。
「同時に、恐怖感もかなりありました。警察官から彼氏に殴られたということを聞いたあと、『もし今後、Aとあきこが会ったらあきこが死んでしまうかもしれない』と直感的に思い、何としてでも守らなければ、と感じました。病院に行き、検査を受けると『軽度の打撲』という診断でした。診断書をもとに被害届を出した方がいいと思ったので、あきこを連れて新宿署に行きました。警察で被害届は受理されて、『Aさんとは別れて、新宿に来ないように』と言われました」
暴行事件が起きたレンタルルームは歌舞伎町にあったが、この時点でもあきこさんから「トー横」という単語は出なかったという。
それでも被害届が無事受理されて捜査も進む中で、浩三さんは「Aが逮捕されるのは時間の問題、これで一安心」と思っていたという。
心中の3日前、3月23日にも浩三さんとあきこさんは連絡を取りあっている。
「他愛もないLINEでした。パソコンの調子が悪かったようで『どうやって操作すればいいの?』というものでした。いくつか方法を提案したら『解決したから大丈夫』と来て、『はいよ』と返しました。なんてことない普通の会話でした。あれが最後だと思うと、もっと会話したかった……」
「なんで16歳の女の子がこんな酷い死に方を…」
しかし2023年3月26日朝、通勤途中の浩三さんのスマホに母から電話がかかってきた。
「大変なことになった、とにかく(横浜の)戸部警察署へ行って」
そう聞いた浩三さんの頭は真っ白になった。
「生死不明でしたが、あきこにLINEを送っても返信はなく、病院ではなく警察というところで嫌な予感しかありませんでした。すぐに妻に連絡して、車で現場から近かった戸部警察署へ向かいました。不安と、嘘であってほしいという気持ちで頭がいっぱいで現実感がなく、夢なら覚めてくれと思っていたのですが……」
警察署に着くと、対面できる状態になるまで5時間近く待たされた。
「警察署について刑事さんと話をして初めて死亡を知らされました。遺体を見ると、やはりあきこでした。自分の中が全て崩れ去った瞬間でした。『なんで16歳の女の子がこんな酷い死に方をしないといけないのか?』『絶対に真相を解明してやる』と頭の中がぐちゃぐちゃでした」
当日、あきこさんとAは自殺しようとしているところを目撃され、警察署に通報が複数あり、まもなく警察官が現場のホテルに駆けつけたが、すでに2人は亡くなっていたという――。
「心中ではあるのですが、お互いがお互いを殺した“殺人事件”の被害者として扱うとも言われました」
「死体検案書」にも「自殺」扱いではなく「その他および不詳の外因」となっていた。
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【厚生労働省のサイトで紹介している主な悩み相談窓口】
▼いのちの電話 0570-783-556(午前10時~午後10時)、0120-783-556(午後4時~同9時、毎月10日は午前8時~翌日午前8時)

▼こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556(対応の曜日・時間は都道府県により異なる)

▼よりそいホットライン 0120-279-338(24時間対応) 岩手、宮城、福島各県からは0120-279-226(24時間対応)
〈 「死のうぜ」「いつwえいまw」“彼氏との心中”を選んだトー横女子(16)のスマホに残されていた「軽すぎるメッセージ」と「激変した外見」 〉へ続く
(渋井 哲也)