「おい地獄さ行ぐんだで!」──。小林多喜二「蟹工船」の有名な書き出しだ。プロレタリア文学の代表作が世に出てから約100年、高市首相は労働者の「働かせ改革」に血道を上げ、片や米国に言いなりの貢ぎ外交に躊躇しない。この状況が「地獄」でなくて何だろう。
高市首相は総裁選の公約に労働時間規制の緩和を掲げ、首相就任後、改めて労働法制を所管する厚労相に緩和の検討を指示。一応、労働者への配慮として「心身の健康維持と従業者の選択を前提に」と留保を付けているが、これまで政府が進めてきた働き方改革に逆行することに変わりない。
労働基準法の見直しを議論する厚労省の労働政策審議会(労政審)は、使用者側と労働者側の綱引きが続いている。27日の労政審で、連合の冨高裕子副事務局長は「柔軟な働き方は現行法制で十分可能だ」と主張し、緩和は不要と強調。一方、経団連の鈴木重也労働法制本部長は「厚労省には早期の(緩和の)検討をお願いしたい」と訴えた。
「使用者側には、限定的に運用されている裁量労働制や高度プロフェッショナル制度の対象拡大が念頭にあります。経団連は9月に公表した規制改革要望で裁量労働制の拡大を訴え、これに沿う形で高市首相の規制緩和論が出てきました。柔軟な働き方の実現を目指すとは言うものの、裁量労働制は基本的に残業代がつかず、長時間労働につながることも懸念されます」(厚労行政に詳しい野党議員)
厚労省の調査によれば、裁量労働制が適用されている労働者の8.4%は「1カ月の時間外労働が80時間以上」に迫る。一方、適用されていない労働者では4.6%。時間外労働(休日労働は含まない)の上限は原則として月45時間・年360時間に定められているが、特に裁量労働制では長時間労働が是正されていないのだ。
■精神障害による労災
規制が形骸化している中、厚労省は労働法制の見直しに向け、今年9月に働き方改革関連法の施行後5年の総点検を実施。
来月をメドに企業・労働者へのアンケートおよびヒアリング調査の結果を公表する。点検結果を踏まえて改正に向けた議論が行われることになるが、足元のデータに照らせば、規制緩和はもっての外だ。
厚労省が28日に公表した「過労死等防止対策白書」(2025年版)によると、外食産業と自動車運転従事者は約2割が過労死ラインを超える残業を強いられている。うつ病などの精神障害で労災認定された件数は18年から右肩上がりで増え、統計を開始した1983年以降、初めて1000件を超えた。脳・心臓疾患による死亡事案も22年以降に増加している。
まず高市首相が取り組むべきは、過労死ライン超えの残業と労災件数の削減である。「働かせ改革」の推進ではない。
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高市政権の誕生によって、安倍政権の時と同じように日本社会は壊される? ●関連記事【もっと読む】『また日本中がブラック企業だらけになる…高市首相が案の定「労働時間規制」緩和指示の醜悪』で詳報している。