厚労省の医師検索サイトなのに名前は出てこず…医師の「現況届」、免許登録者の4割が未提出

医師法で義務付けられている厚生労働省への現況届「医師届出票」の提出を怠る医師が相次いでいる。氏名や勤務先などを報告するもので、医師免許を取得して国に登録されている医師のうち、4割近くが提出していない。厚労省は「死亡などの事情があることも考えられる」として個別に催促などは行っていないが、届け出た情報は医師の偏在などの把握にも活用されるため、厳格な運用を求める声も上がる。(柏原諒輪)
厚労省は8月、診察していない患者に薬の処方箋を出したとして罰金刑を受けた99歳の男性医師に対し、医業停止2か月の処分を出した。厚労省の資料などによると、この医師は東京都港区のクリニック院長を務めていた2019年に、5回にわたって診察していない数人の薬の処方箋を出したとして医師法違反に問われ、東京簡裁から罰金30万円の略式命令を受けた。
関係者によると、この医師は医師届出票を提出しておらず、今回の処分が出るまでは厚労省の医師検索サイトで名前を調べても見つからなかった。港区によると、クリニックの運営実態を確認できなくなった上、院長とも連絡がつかなかったため、区が22年9月に廃院の手続きを取ったという。厚労省関係者は「当時、医師としての勤務実態はなかったようだ」と話した。
医師資格は取得して国に登録すれば生涯有効となり、更新の手続きなどは必要ない。その一方で、医師法は医師に2年ごとに、氏名や勤務している医療機関などの現況を記した医師届出票を厚労省に提出するよう義務付けている。
厚労省は届け出をもとに医師の業態や分布を正確に把握し、施策に活用している。厚労省が開設している医師検索サイトも届け出の情報がもとになっており、提出していない医師の情報は、処分者を除けば原則として検索しても出てこない。

だが、男性のように届け出を怠る医師は少なくないとみられる。厚労省によると、22年12月末時点で現況届を出した医師は約34万人だったのに対し、免許を取得して国に登録された医師数は約54万人に上る。届け出ていない約20万人の中には、死亡後や閉業後に登録抹消の手続きをしていない人も多数含まれると考えられるものの、厚労省幹部は「単に届け出を怠っている医師も相当数いるだろう。届け出義務が形骸化している」と話す。

厚労省、個別催促は行わず

厚労省はオンラインでも現況届を受け付けており、医師会などを通じて医師たちに提出するよう促している。ただ、未届けの医師たちへの個別催促などは行っていない。
この10年ほど提出していないという福岡県の40歳代の男性医師は「最初は忙しくて出すのを忘れただけだったが、催促もなかったのでずっと出していない」と明かす。一方、都内の40歳代の男性医師は届け出が義務だとは知らなかったといい、「確認したら勤務先が提出してくれていた。自分ではやったことがない」と話す。
医師法は届け出の義務違反者には50万円以下の罰金を科すと定めている。ただ、厚労省の担当者は「事件化された例は把握していない」としており、実際に未届けの医師が立件された例はないとみられる。
医師の倫理に詳しい元金沢大付属病院特任教授の野村英樹医師は、都市部などに医師が偏在する問題を解消する上でも、政府が国家資格である医師の実態を正確に把握する重要性を指摘。「一般市民からすれば、自分や家族が診てもらっている医師が厚労省のサイトで出てこなければ不安になるだろう。長期にわたって届け出義務に違反する医師には法に基づいて罰金を科すことなども検討すべきだ」と話す。