出雲大社の池でもがく迷子犬、見かけた新聞配達員が飛び込み救出…チラシ1000枚配った飼い主「思いが神様に届いた」

出雲大社(島根県出雲市)の神楽殿そばにある「鏡の池」で9月、5日間迷子になっていたシバ犬の「おうすけ」が無事に保護された。地域住民らが連日捜索を続ける中、新聞配達中に「おうすけ」を見つけた読売新聞の配達員が池に飛び込んで救い上げた。飼い主は「出雲大社で見つかるなんて。皆さんの思いが神様に届いた」と喜んでいる。(豊島瞬)
地域住民やSNS

9月12日の朝、出雲市のバイク店店長、巌更奈さん(48)は愛犬の「おうすけ」と車で出勤した。人なつこく、客からかわいがられる店の「看板犬」だった。
一緒に店に入った後、外で大きな物音がした。音に敏感な「おうすけ」は驚き、ドアの隙間から首輪とリードを付けたまま走り去った。「おうちゃん、待って!」。通りかかった男子高校生が自転車を投げ出して進路をふさいだが、軽々とかわし、どこかへ駆けていった。
巌さんはすぐに警察と保健所へ届け出て、複数のSNSで発信。常連客や宅配業者、動物病院の看護師、地域の動物愛護団体「アニマルレスキュードリームロード」など数多くの人が捜索に加わり、各地で目撃情報が寄せられた。
だが、見つからぬまま、13日夜には雷鳴と豪雨が出雲を襲った。巌さんは「雷の音が怖くて震えているはず」と眠れなかった。
15日には協力者が作ったチラシ1000枚が届き、市内に配られた。SNSでの拡散も数千件に上った。「一緒に捜したい」と遠方から駆けつける人もいた。
池に飛び込み

「おうすけ」を助けたのは、読売新聞を販売する出雲中央店の配達員、石橋貴男さん(52)だった。迷子になった翌日の早朝、配達中に偶然、「おうすけ」を見かけ、その後にチラシを見て迷子犬だったと知り、悔やんだ。「次は必ず保護する」と心に決めた。
17日早朝、新聞配達中に出雲大社で「おうすけ」を発見。神楽殿から、鏡の池に勢いよく飛び込んでもがいていた。池の水深は胸の高さほどあったが、石橋さんはためらわずに入り、ずぶぬれになりながらもリードをつかみ、助け上げた。前脚やあごに擦り傷、体にはダニもついていたが、元気だった。すぐに巌さんに連絡し、引き渡して配達に戻った。
治療を終えた「おうすけ」は、19日に看板犬に復帰。巌さんは「池に落ちたことで水を怖がるのでは」と心配になり鏡の池へ連れて行ったが、飛び込みそうな勢いで池に駆け寄り、水面をのぞき込む姿に、「全然懲りていませんでした」。苦笑しながらも、心から安堵(あんど)したという。
巌さんがSNSでお礼を兼ねて見つかったことを報告すると、「出雲大社で見つかるなんて。神様ありがとう」「みなさんの願いが出雲の神様に届いたんですね」「出雲の国の温かい人柄が伝わってきて住みたくなった」など全国から1000件を超えるコメントが寄せられた。
「おうすけ」を救った石橋さんは猫を3匹飼っており、「ペットが迷子になる不安がすごくわかる。出雲大社で見つけたのは、『あなたが助けて、家に帰してあげなさい』とお告げをされたのだと思う。きっと神様に守られていたんですよ」。巌さんは「多くの方に支えてもらった。神様が石橋さんとの縁を結んでくれたのでしょう」と語る。
人々の思いと「おうすけ」のたくましい生命力が紡いだ物語は、全国から神々が集まるという出雲らしい結末だった。