高市首相はなぜ、あそこまで笑顔を見せるのか?

一部上場企業の社長や企業幹部、政治家など、「トップエリートを対象としたプレゼン・スピーチなどのプライベートコーチング」に携わり、これまでに「1000人以上のトップエリート」の話し方を変えてきた岡本純子氏。
たった2時間のコーチングで、「棒読み・棒立ち」のエグゼクティブを、会場を「総立ち」にさせるほどの堂々とした話し手に変える「劇的な話し方の改善ぶり」と実績から「伝説の家庭教師」と呼ばれている。
その岡本氏が、全メソッドを初公開した『世界最高の話し方――1000人以上の社長・企業幹部の話し方を変えた!「伝説の家庭教師」が教える門外不出の50のルール』は発売後、14刷17万部を突破するベストセラー&5年間売れ続けるロングセラーになっている。
コミュニケーション戦略研究家でもある岡本氏が「高市総理の話し方」の緊急連載をスタートする(本記事が1回目)。
“ラスボス”のコミュニケーション術
大方の予想を裏切り、高市早苗氏が日本初の女性宰相に就任しました。
【14刷17万部のベストセラー&ロングセラー】「1000人以上のトップエリート」の話し方を変えてきた岡本純子氏の著書『世界最高の話し方』
今のところ、メディア各社の世論調査によれば、支持率は近年まれにみる高水準で、特に若年層の人気を集めています。
そこにはさまざまな理由がありますが、なかでも、人をひきつける彼女の巧みなコミュニケーション術が功を奏しているのは間違いありません。
コミュニケーション学の観点から言うと、高市氏はずばり、「当代随一の戦略的話術師」。
その一挙手一投足に、じつは「戦略性」があります。
今回の緊急連載では、彼女の「深謀遠慮」の話し方・見せ方の秘密にじっくりと迫ってみましょう。
「日本の政界に“ラスボス”(最強キャラ)が登場した」。これが、コミュニケーションの戦略研究家として、これまで数多くのリーダーをコーチングし、ウォッチしてきた筆者の率直な感想です。
以前の記事(総裁選、「高市氏の言葉」にネット民が熱狂する訳)でも分析したように、高市氏の話し方には最近のどの政治家にもない非常に高度な工夫が凝らされています。
どう話したら、人が動くか、好きになってもらえるか、信頼されるのか。じつはコミュニケーションは科学であり、絶対に「効く」方程式やルールがあります。
高市氏はまさにそういったルールを熟知しているかのように、人を魅了する話し方のテクニックを縦横無尽に駆使し、支持者の気持ちにスイッチを入れているのです。
連載1回目のテーマは、高市氏のあの「笑顔のナゾ」です。
高市氏の表情として多くの人の頭に浮かぶのが目をクシャッとしたあの笑顔でしょう。
人によっては、「わざとらしい」「笑いすぎ」「嫌い」という声もありますが、「明るい表情がいい」「気分が和む」と好意的に受け止める人も多いように感じます。
「女性の地雷」を回避する高市氏の笑顔
先日、筆者は、フジテレビの「Mr.サンデー」で、高市氏の話し方の秘密についてコメンテーターとしてゲスト出演しました。
その中で、表情解析をする企業が分析をしたところ、安倍氏から石破氏までの歴代首相が所見表明で笑顔を見せた時間は全体のゼロ~7パーセント程度だった一方、高市氏は31%と非常に高い割合で笑顔を見せていることがわかりました。就任会見のときはさらにその頻度が上がり、全体の51%で笑顔を見せていたのです。
なぜ、そこまで笑顔を見せるのでしょうか?
筆者は、この笑顔には高市氏の「計算された意図」があると見ています。
その意図とは、「女性の地雷」を回避するということ。
以前、別の記事(『「怒りながら叫ぶ女」はどうして嫌われるのか』)でも触れたように、女性リーダーは、弱々しくても、強すぎてもいけないという「ダブルバインド」(二重拘束)の縛りを受けやすいと言われます。
おとなしくて主張をしなければ「リーダーシップがない」「気が弱い」と言われ、意見を述べ、自信があるように振る舞えば、「気が強い」「ヒステリック」「怖い」「冷たい」と、言われてしまう。
女性は基本「優しく、温かく、包み込むべき存在である」という社会的期待がいまだ根強いため、「自己主張をし、自信があり、アグレッシブ」という男性特有のリーダーシップのスタイルを踏襲しようとする女性は「攻撃的」「強引」と見なされがちです。
たとえば、蓮舫さんが男性であれば、あそこまで批判はされなかったのではないでしょうか。
それほど、「気が強い」「自己主張をする女」は制裁を受けやすい。「怒る女」は「怒る男」以上に徹底的に嫌われてしまうのです。
強い口調で話すからこそ、笑顔が「最強の武器」に
高市氏の物言いは自信に満ち、強い口調で話す場面も少なくありません。
そんなときに、怖い顔をしていたら、あっという間に「ヒステリー」「怖い」認定されてしまう可能性があります。
「弱くなりすぎても、強くなりすぎてもいけない」。両側に「地雷」を埋まっているような狭い帯域でのコミュニケーションを強いられる、という女性特有の「ダブルバインド」。
その制約の中で、彼女の笑顔は「怖さや厳しさを和らげる」最強の武器として使われているのです。
その笑顔のすごみは、頻度だけではありません。その方法がまた高度です。
普通、「笑顔」というと、みなさん、口元が上がったものを想像するかもしれません。
しかし、「口元だけの笑顔は、じつは偽物。本当の笑顔は目元に出る」。これは19世紀のフランスの神経学者が数々の実験を経て導き出した結論です。
口角が上がるだけではなく、目元の「眼輪筋」が動き、目じりにしわができるほどの笑顔こそが本物だと言われています。
笑顔に込められたメッセージ
高市氏の「目じり笑顔」はまさに、この神経学者の名を冠した「ドュシエンヌ・スマイル」そのもの。
そうした笑顔は見る人のセロトニンやドーパミン、エンドルフィンなどの「幸福ホルモン」の分泌を促すと言われています。ですから、あの笑顔に安心感を覚える人は少なくないということになります。
つい先日のNY市長選で劇的な勝利を収めたゾーラン・マンダニ氏も終始、目元に笑顔を浮かべ、民衆と対話する姿が大変印象的でした。
それほどに、彼女の笑顔には意図がある。
そういった意味で、アメリカのトランプ大統領との「ニコニコ」会談と中国の習近平主席との緊張感漂う「目じり笑顔」なし会談との差には何らかのメッセージが込められていたようにも見えました。
また、トランプ大統領との会談では、笑顔を見せながら、完全に彼にロックオンした「熱いアイコンタクト」も印象的でした。
「アイコンタクト」は、「相手と脳波を同期させる」とも言われるコミュニケーションの最強武器。高市氏の半ば「うっとりとしたように」見つめる表情やボディタッチに、トランプ大統領はノックアウトされたようだ、と評する海外のソーシャルメディアの動画もありました。
男性リーダーに多い「無愛想」「仏頂面」「ぶっきらぼう」
一般的に、日本のリーダーたちは「無愛想」「仏頂面」「ぶっきらぼう」の3拍子揃った男性が本当に多いのが現状です。
私はリーダーの「話し方の家庭教師」をする中で、多くの男性リーダーを指導してきましたが、「ニヤニヤするんじゃない!」と叱られてきた世代なので、「にやけて見られるのが嫌だ」とおっしゃいます。
そんな無表情なリーダーの下で、企業や組織の内部は陰鬱とし、コミュニケーションが沈滞化する。未来に希望が持てない現代で、リーダーの明るい表情は、人々のマインドセットに大きく影響を与えます。
たかが笑顔、されど笑顔。高市氏の笑顔の裏には、実に数多くの戦術的な思惑が隠されているということなのです。
岡本 純子:コミュニケーション戦略研究家・コミュ力伝道師