生命の設計図であるDNAの二重らせん構造を解明したジェームズ・ワトソン博士が亡くなった。遺伝情報が受け継がれるメカニズムを明らかにし、生物学研究の新たな扉を開いたワトソン氏の死を悼む声が日本でも広がった。
細胞の自食作用「オートファジー」の仕組みの解明で2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞した東京科学大の大隅良典栄誉教授は「私が分子生物学の世界に入った最大のきっかけだった。大きな影響を受けている」とその死を惜しんだ。1962年のノーベル生理学・医学賞に輝いたワトソン氏らの発見により、遺伝情報がDNAからリボ核酸(RNA)へと転写され、たんぱく質が翻訳されるという生物学のセントラルドグマ(中心原理)が分かったとし、「大腸菌から人に至るまで共通だったことに非常に衝撃を受けた」と振り返った。
共同研究者のフランシス・クリック博士もすでに死去していることから「我々が師と仰いだ人が次々亡くなっていく時期に来ていてちょっとつらい。本当にご苦労様でした」と語った。
また、大隅氏は「二重らせんが遺伝子を正確に複製できる機構だと解明したことは、生物学的に最も重要な発見。分子生物学の基本原理そのものだった」と偉大な功績をたたえた。
細胞分子生物学者の永田和宏・京都大名誉教授も「二重らせん構造の発見は、我々がやっている分子生物学の原点。誰も考えつかなかった巧妙なメカニズムを明らかにした」と話し、「ワトソン氏はどう形容しようもない、偉大な、20世紀最大のサイエンティストの一人であることは間違いない」と称賛した。
その上で、多くの若い研究者に与えた影響にも触れる。「ネイチャーに掲載された論文自体はわずか2ページだが、人間関係も含め、二重らせんの発見に至るまでの物語を赤裸々に描いた著書『二重らせん』は多くの研究者に非常に大きなインパクトを与えた。科学者はこのように競合したり、協力したりしながら未知のことを見つけていくんだと多くの若者を研究の世界にいざなった」と語った。【垂水友里香】