母介護で学校行けず読み書き計算できなかった青年 夜間中学から定時制進学で簿記3級取得

病気で寝たきりの母親を幼い頃から介護していた友山幸(ともやま・こう)さん(26)=仮名=は、小学校にもほとんど通えず、読み書き計算などの基礎学力を身につけることができなかった。19歳で京都市立洛友中学校夜間部(夜間学級)に入学。3年間で学びの土台を築き、進学した京都府立桃山高校定時制課程(商業科)では簿記の資格も取得した。取り戻した学びを糧に来春、社会へと巣立つ。

10月のある日、桃山高校定時制課程の3、4限目の授業は、1週間後に迫った文化祭の準備にあてられた。朗読劇に出演する友山さんは、発表の舞台となる体育館の壇上に立ち、先生から照明器具の扱い方を教わっている級友らに「ライト、こっちにくれ」「もう少し右に」などと声をかける。
最終学年の今年は初めてオリジナルの台本も手がけた。友山さんが演じるセールスレディーから、煩わしいことを入力するだけでなかったことにできるアプリ「神スキップ」をプレゼントされた男子生徒は、文化祭やテスト、ついには友達まで消してしまう…。現代的なブラックユーモアで、際限のない人間の欲望を描き出した作品だ。
「ふだんから思いついたことを文章にしている」と笑顔で話す友山さん。7年前には、こんな自分の姿は想像できなかった。

漢字の読み書きができない。計算できるのは簡単な足し算、引き算だけー。平成31年4月、夜間中学に入学した友山さんには基礎学力が欠けていた。
母子家庭で育ち、寝たきりになった母親の代わりに、年の離れた姉と兄が働き、幼い友山さんが母親を介護した。通学できたのは小学1年の半ば頃までで、学校との縁が切れたまま学齢期が過ぎた。家庭状況が変わり、学び直せる場だと知った夜間中学の門をくぐる。先生は漢字の意味や書き順、計算方法などを一から教えてくれた。一人で電車に乗って登校し、生徒会長も務めるなど、いくつもの「初めて」を経験した。
3年余り前の取材で友山さんは、「人生の分岐点」という夜間中学時代を、生い立ちを、目を赤くして語った。「自分の名前もまともに漢字で書けなかった」という彼が今、台本を創作し、自分の思いを文章にしたためている。「見ますか?」と言って差し出されたタブレット端末には、人生についての考察が書かれていた。

夜間中学を卒業した後は働くつもりだったが、周囲の勧めで高校に進学した。
「高校の勉強は難しいと思っていたので、初めてのテストで高得点を取れたときは驚きました。洛友で学んだことが生きて、高校でもちゃんと通用する学力がついていた。すごくうれしかったです」と振り返る。その後の日々も、夜間中学で築いた土台に、高校で深めた学びを積み上げている実感があるという。
新たな経験を重ねたことは自信につながった。その代表が簿記資格の取得だ。当初は「どうせ無理」とあきらめていたが、簿記の授業や部活の簿記部で勉強を続けるうちに手応えを感じるようになり、検定試験の受験を決意。昨年、3級の資格を取得した。近々、パソコン検定2級にも挑戦するという。
「先生たちは親身になって教えてくれ、困っていると相談に乗ってくれる。洛友のように、ここも温かい学校です」
新たな友達もできた一方で、夜間中学で出会った「相方」と呼ぶ親友の男性(32)とは高校でも机を並べ、絆は一層強まった。卒業後、働く友山さんと進学する男性の道は分かれるが、二人は「これからもつき合いは続く」と口をそろえる。
友山さんの就職先はまだ決まっていないが、仕事への意識は変わった。「以前は学力がなくてもできる仕事を、とだけ考えていましたが、今は学力がついていろんな分野に目がいくようになり、選択肢が広がりました。コツコツと作業をするのが好きなので、自分に合う仕事を見つけたい」と未来を語る声は明るい。

文化祭当日、スポットライトを浴びて熱演する友山さんと相方に、観客から大きな拍手が送られた。「達成感があります」と話す友山さん。「高校に行ってよかった。洛友で学んだことを生かせたのもうれしいし、まだまだ足りなかったことを学べたこともうれしい。ここは、自分にとって絶対に来るべき重要な場所でした」
二つの学校での学びを、これからの人生に生かしていく。
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