関西広域連合のドクターヘリの運航が整備士不足で一部休止され、救急車やドクターカーなどで代替したケースが7~10月に計99件に上ったことが、広域連合への取材でわかった。現在は8機を運航しているが、来年度に確保のメドがついているのは3機にとどまる。広域連合は国などと対策チームを発足させ、連携して委託先を探している。(藤岡一樹)
近畿2府4県と鳥取、徳島両県を管轄する関西広域連合は2011年からドクターヘリ事業を始めた。通常は都道府県ごとのヘリを共同で運航。複数のヘリが補完し合う「相互応援体制」を構築し、経費の削減につなげる狙いもある。
現在は、広域連合側が、航空専門学校などの事業を展開する学校法人「ヒラタ学園」(堺市)に運航を委託。ヒラタ学園所有の8機が広域連合管内の8病院にそれぞれ拠点を置き、定められた区域をカバーしている。24年度の出動件数は4412件。
ところが8機は今年7~8月に順次、最大1週間運航を休止した。9月に通常体制に戻ったが、10~11月も4~6日間ずつ運航を取りやめた。ヒラタ学園は、整備士の休職や退職が相次いだためとしている。12月も各機が6日ずつ休止するという。
国の研究班が定める運航基準では、ドクターヘリには操縦士の補佐役として整備士が同乗する必要がある。
広域連合によると、休止中のヘリの管轄区域で出動すべき事案が発生し、救急車や、医師を乗せたドクターカー、防災ヘリで代替したのは7~10月、計99件あった。
鳥取県では7月、心臓疾患の90歳代女性を搬送するのにヘリが使えず、ドクターカーが使われた。ヘリの場合は通常、30分以内に搬送しているが、このケースでは90分かかったという。
広域連合は、いずれのケースでも患者の命に別条はなかったとしているが、ヘリの拠点になっている鳥取大医学部付属病院(鳥取県米子市)の上田敬博・高度救命救急センター長は取材に対し、「運良く最悪の事態が起きていないだけで、このままでは救える命が救えなくなる」と危機感をあらわにする。
広域連合の8機のうち和歌山と奈良が拠点の2機を除く6機は、今年度末で契約期限を迎える。広域連合が9~10月、このうち4機について先行して運航会社を公募したところ、応募があったのは1社1機だけだった。ヒラタ学園は応募していない。
広域連合は10月末に各府県や病院、厚生労働省などの担当者で対策チームを設立。ドクターヘリの運航会社を個別訪問したり、各社が集う会合に出向いたりして協力を依頼している。
三日月大造・連合長(滋賀県知事)は今月20日の記者会見で、「参画の可能性のある事業者に働きかけをし、かなわなければ、どういう対策を取るのかも検討したい」と述べた。
厚労省地域医療計画課は「救急医療体制を維持できるよう支援を続ける」としている。
しかし、委託先を見つけるのは簡単ではない。ある運航会社は取材に「整備士や操縦士の余剰人員を確保しているわけではなく、急に来年度からお願いしたいと言われても対応できない」と話した。
ヒラタ学園は03年にドクターヘリ事業を開始。全国10か所の拠点で委託を受けて運航している。東京都と長崎県の運航も受託しており、今年8~11月で東京都では1機が計18日間、長崎県では1機が計19日間運休した。
ヒラタ学園は「患者や関係者に迷惑をかけ申し訳ない。整備士の採用面接は進めており、運航体制の維持に尽力したい」としている。
国土交通省によると、整備士の主要な養成機関である航空専門学校の入学者数は、航空需要が減ったコロナ禍以降、半減しており、整備士不足は全国的な課題になっている。
日本航空医療学会の猪口貞樹理事長の話「患者を速やかに搬送できなければ、後遺症のリスクも高まるため運航体制の早急な改善が望まれる。企業の経営状態や人手不足に左右されないよう、国はドクターヘリ事業の公営化や整備士育成に向けた学費助成の強化などに取り組むことが望ましい」
◆ドクターヘリ=災害や事故の発生時に医師や看護師を乗せて救急出動するヘリコプター。医療機器や医薬品を備え、搬送中も機内で初期治療ができる。1995年の阪神大震災で整備の機運が高まり、国が主導して2001年に本格運用が始まった。厚生労働省などによると、全国に57機あり、23年度の出動件数は約2万9000件。