「息子の人生が終わったのと同じように、自分の人生も事故発生日に終わっている」
小学4年だった息子を交通事故で亡くした父親の言葉だ。取材した時点で発生から10年以上が経過していたが、「ただ生きているだけ。幸せという感覚にはならない」と吐露した。ときに笑顔を見せることがあっても、心からの感情ではないという。
同じく小学6年だった息子を亡くした母親は事故後、食事も、睡眠も、日常生活の全てがとげとなって心に突き刺さるようになった。「息子はもう何もできないのに、それをしている自分が許せない」と考えてしまうからだ。1件の死亡事故がどれほど深刻な影響をもたらすか。こうした遺族の言葉が物語っている。
車の運転免許を巡り、ある変化が起きている。認知度が高いとはいえないが、道路交通法には、実際に事故や違反がなくても、車を運転するリスクが高い場合は免許停止にできるという「危険性帯有」と呼ばれる規定がある。これを自転車で悪質な運転をした人に適用するケースが急増しているのだ。
転機は、自転車の酒気帯び運転などに罰則が新設された昨年11月の改正道交法の施行だ。大阪府内だけでも昨年11月~今年10月の1年間、自転車の飲酒運転を746件摘発。これに関連し、運転手や2人乗りの同乗者ら414人に危険性帯有が適用された。この規定自体は法改正以前からあったが、それまで自転車の悪質運転を理由とする適用は年間数件だったという。
「自転車の違反でなぜ車の免許が停止されるのか」と疑問を抱く人もいるかもしれない。しかし、自転車は免許がなくても乗れるとはいえ、道交法上は車と同じ「車両」。事故相手を死傷させる危険性があることにも変わりはない。そのリスクを軽視する人に対し、より事故時の衝撃力が強い車を運転できないよう措置を講じるのは、重大事故の未然防止に有効だろう。
冒頭の遺族は「全ての運転手が『もし事故の相手が自分の愛する家族だったら』と想像すれば、悪質な運転はなくなるはずだ」とも話していた。急増する危険性帯有の適用が単なるペナルティーではなく、あらゆる車両のハンドルの重さを自覚する機会となってもらいたい。
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平成22年入社。阪神支局(兵庫県)、宇都宮支局を経て25年から大阪社会部(現・報道本部)。主に警察や裁判所など刑事司法分野を取材。