「地球上最悪の侵略的植物」じわじわ拡大、31都府県で確認…「半端ではない」繁殖力で稲収穫できず

繁殖力の強さから「地球上最悪の侵略的植物」と呼ばれる南米産の水草「ナガエツルノゲイトウ」が国内の河川や湖沼で分布を広げ、田んぼが覆われて収穫できないなどの農業被害が出ている。国内で自生が確認されたのは31都府県。災害のリスクも懸念され、政府は対策の強化に乗り出した。(西原寛人)
「恐れていた外来種がついに侵入してしまった」
群馬県農業技術センターの新井朋二係長は肩を落とす。今月1日、同県館林市の水田脇の通路で、県内初となるナガエツルノゲイトウの自生が確認された。自生範囲は数平方メートル。センター職員が現場に行き除草剤で除去したが、しばらくは完全に除去できたかどうか監視を続けるという。
環境省によると、国内で定着が最初に確認されたのは1989年の兵庫県尼崎市だった。観賞用として海外から持ち込まれたものが何らかの理由で自然界に放出されたのが原因と言われる。その後、西日本にじわじわと広がり、東日本も福島県以南の一部で見られるようになった。
関係者が口をそろえるのが、その繁殖力の強さだ。
多年生で乾燥に強く、水陸どちらでも枝分かれしながら茎を伸ばし、水上ではマット状の群落を形成する。茎がちぎれやすく、除去しても現場に落ちるなどした数センチの断片からでも発根する。断片が農機や靴などに付着して別の場所に運ばれて増殖することもある。2005年の外来生物法の施行に合わせて、生態系や農業への悪影響が懸念されるとして「特定外来生物」に指定された。
茨城県南部の新利根川の流域では、川だけでなく、川から田畑に水を運ぶ農業用水路にまで広く定着している。
同県河内町の男性(65)の田んぼは昨秋、ナガエツルノゲイトウに覆い尽くされた。農機を入れることができず、約700平方メートルにわたって稲が全く収穫できなかった。田植え前に市販の除草剤をまき、用水路からの給水栓にネットも張った。栢沼さんは「ごく小さな茎の断片がネットのマス目を通って田んぼに入り込んだのではないか。除草剤も効果はなかった」と嘆き、「繁殖力が半端ではない。農家の努力では防げない」と訴える。
河川や水路に群生したナガエツルノゲイトウは排水設備の目詰まりを起こし、災害リスクを高める。千葉県北部の印旛沼では15年9月の台風の際、洪水を防ぐために近くの川に水を逃がす排水設備が詰まり、緊急停止した。洪水には至らなかったが、関係者は緊急の除去作業に追われた。
県内では印旛沼のほか、同じ利根川水系の手賀沼でもナガエツルノゲイトウが群生する。県が主導して防除に取り組んでいるが、印旛沼近くの鹿島川土地改良区の高橋修事務局長は「流域一帯で蔓延(まんえん)し、何度除去しても復活する。イタチごっこだ」と嘆く。
環境省は今年度、ナガエツルノゲイトウなどの防除に取り組む自治体向けに計5億円を交付した。申請が殺到したため、来年度当初予算の概算要求では交付金額を14億円とした。農林水産省などと連携し、画像識別AI(人工知能)を活用した監視や、確実に枯死させることができる薬剤の研究も進めている。環境省の担当者は「生態系や農業など多方面で大きな脅威となっており、拡大を抑えなければならない」と話した。
◆ナガエツルノゲイトウ=ヒユ科の多年草で主に水辺に自生する。茎はストロー状で、長さ0.5~1メートルに伸び、絡み合って群落を形成する。強い生命力と排除することの難しさから、「アリゲーターウィード(ワニ草)」との英名を持つ。在来生物の生息環境や水質を悪化させるなどの問題も指摘され、外来生物法で、無許可での栽培や保管、運搬などが禁止されている。