通知表廃止の動き…成績や学校での様子伝える手段、他者と比較・劣等感を持たせるべきではない?

小学校で通知表を廃止する動きが出ています。作成に法的義務はありませんが、長年にわたって教科の成績や学校での様子を家庭に伝える手段とされてきました。一方で子どもを他者と比べたり、劣等感を持たせたりすべきでないという声もあります。皆さんはどう考えますか。
[A論]学び理解度一目で…頑張る動機付けに
通知表は、学校での子どもの学習面と生活面の状況を家庭に連絡する方法の一つです。作成は任意で、実は様式、内容、配布の頻度まで学校長の裁量に任されています。
小学校では評価が各教科の三つの観点別だけで、教科の総合評価がない場合もあります。全国のほとんどの小学校が作成しており、慣習的に作成しているところも少なくありません。
小学5年の娘(11)を育てている東京都の会社員女性(45)は「子どもの学習の理解度を知りたいので、通知表は必要だと思う。保護者面談で先生から話を聞く機会もあるが、文書で可視化されるほうが一目で分かっていい」と話します。また、「将来の受験につながる教科の成績は特に関心がある」と受験を意識している面もあると言います。娘も「得意な教科は通知表で評価されるとうれしい」と言い、勉強の動機付けになっています。
大阪市内の公立小の教諭を務め、学校教育に関する著書もある松下隼司さん(47)は「通知表の作成は時間がかかり、現場の教師にはかなりの負担だが、保護者だったら通知表は絶対にほしいと思う。子どもの勉強の得意・不得意な分野が分かり、子どもが勉強を頑張るきっかけになる」と学習意欲の向上や、指導による改善といった役割を強調します。
松下さんは、通知表を手渡す際、その子の魅力や頑張りは決して数字だけでは表せないと伝えた上で次学期の目標を子どもと話し合う材料としています。「成績が悪かったら落ち込むこともあるだろうが、『次の学期はもっと頑張ろう』と思うようになる。実際、子どもが努力する姿がよく見られます」と話します。
通知表は出席や学習状況、指導上参考になる事項を記録し、受験時に提出する調査書の原簿となる「指導要録」とは異なります。指導要録は学校教育法施行規則で作成が義務づけられています。教科ごとに「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」という三つの観点別に評価し、それを基に各教科を総合的に評価します。多くの学校では通知表も指導要録に基づいて作成される場合が多いです。
教育評価に詳しい佛教大客員教授の田中耕治さんは「通知表の作成を仮にやめても、学校は指導要録を作成するので、子どもに対する評価をやめるわけではない。通知表は子どもへの指導と学習の改善を目指すもので、学校と家庭が共に子どもを励ましながら育てていくものだ。その方法の一つとして、位置づけてほしい」と話します。
[B論]適性を計りきれず…評価より「のびのび」重視
東京都新宿区立西新宿小は2023年度に全学年で通知表を廃止しました。
同校の通知表はこれまで、各教科を観点別に3段階で評価し、担任の所見を記載していました。廃止を決めた校長の長井満敏さんは「その観点でできる、できないで評価しても、その子の色々な良さが見えず、力を伸ばせない。子どもの興味や適性は通知表では計りきれない」と言います。
さらに、通知表でよくない結果を見た児童は自分の評価が決まったように受け止め、自分は勉強ができないという劣等感を持つのではと危惧します。
通知表の代わりに、年1回だった教師と保護者の面談を2回にし、学習や学校生活の様子をより丁寧に伝えています。「成績を意識せず、好きなことや得意なことを積極的に学ぶなど主体的な姿勢を身につけてほしい」と話します。
中学受験の時に、通知表のコピーの提出を求められる場合がありますが、同校は指導要録をもとに通知表に代わるものを個別に作成しています。通知表を廃止後、保護者からの反対はほぼないといいます。
自治体単位で小学校の通知表を廃止する例も登場しています。
静岡県掛川市では、小学校全21校で27年度までに1~4年生の通知表を廃止します。目的の一つが通知表に費やす時間を子どもと向き合う時間に振り分けることです。学校教育課長の小関昌典さんは「3段階では評価が曖昧。成長度合いや個性が一人一人異なり、その子の良さや課題を伝えるなど丁寧な指導を行う必要がある。成績に縛られず、のびのびと成長してくれれば」と話します。
同市では、22年度から導入している学習支援ソフトで、今秋から、各自のレベルに沿った問題や単元ごとのテストを解いた記録を表やグラフで可視化し、通知表より習熟度を細かく把握できるようにしました。子どもたちに具体的な目標や目的を持って学習に取り組ませるのが狙いです。
通知表を廃止する取り組み例はまだ少ないです。廃止するのも校長の裁量なので、校長が交代すれば、復活する可能性もあります。
名古屋大教授(教育社会学)の内田良さんは「通知表は特定の期間の、特定の側面から見た大雑把な評価にすぎず、特に成績がそこまで意味を持たない低学年はなくてもいい。子どもの学習状況を把握できる手段が別にあれば、高学年での廃止も検討していいのでは。評価は最小限にして、子どもと日々向き合い、声がけなどを通して自尊心を高めていくことが大切だ」と話します。
作成 教師の負担大きく
通知表はそもそも学校が家庭と協力して子どもの教育に当たることを目的にした連絡簿です。鳥取大名誉教授(教育方法学)の山根俊喜さんは「本来、家庭がほしい子どもの情報をきちんと捉え、学校の一方的な通知にならないようにするのが大事」と話します。
始まりは明治期に遡ります。明治初期からあった学業成績などを家庭に知らせる帳票に、1880年代、家庭と学校が連絡を取り合う通信欄が付加されました。これが現代の通知表の原型とされ、91年の「小学校教則大綱」の文部省説明で、発行が促されました。
1900年に、後に指導要録となる学籍簿の様式が定められ、通知表もこれに準拠していきます。55年には指導要録で教科別総合評価に5段階の相対評価が取り入れられ、通知表も倣いました。
しかし、相対評価に保護者から不満の声が上がり、2001年の指導要録改訂で学習の評価は目標に準拠した評価、いわゆる絶対評価に移行され、19年には四つだった観点が三つに整理されました。
通知表の作成は教員の負担となっています。文部科学省の資料によると、所見欄の作成だけで1学期あたり10時間を要します。西新宿小では、廃止で業務量が減り、授業の準備などの時間にあてられるようになりました。3学期制から2学期制に変える近年の動きも通知表などの発行回数を減らし、負担を軽減する意味もあります。
名古屋大の内田さんは「通知表の廃止は、働き方改革の観点で重要だ」と指摘します。(生活部 金来ひろみ、丸山菜々子)
[情報的健康キーワード]デジタルデトックス
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