警察官に小型「ウェアラブルカメラ」導入の検討進む…事件・事故の証拠の保全、カスハラ対策にも

警察官が職務中に装着する小型の「ウェアラブルカメラ」の導入を警察庁が検討している。職務が適切に行われているかどうかの検証や事件・事故の証拠の保全を図るほか、市民からの「カスタマーハラスメント(カスハラ)」から警察官を守る狙いもある。警視庁や神奈川、福岡県警など13都道府県警でモデル事業が行われており、現場の警察官、住民ともに評判は上々のようだ。
11月下旬、福岡・JR博多駅前。キャリーケースを引く観光客らが行き交う中、福岡県警博多署博多駅前警部交番の警察官ら2人が巡回していた。胸には手のひらサイズの小型カメラを装着。レンズの上に赤いランプが点灯し、「REC」(録画中)の文字が表示されていた。
同県警は9~11月、交番勤務などの地域警察にカメラ13台を試験的に導入し、職務質問を行った際などに映像と音声を記録した。県警によると、現場の警察官からは好評で、市民からの苦情もなかったという。
九州一の歓楽街、福岡市・中洲にある同署中洲警部交番の男性巡査部長は「職務質問など自身の仕事ぶりを事後的に確認できるメリットは大きい」と話す。中洲で同僚と酒を飲んだ帰りの男性会社員(37)は「客観的な記録があれば、お互い冷静に対応できるのではないか。ただ、捜査以外に使われたり、映像が流出したりしないか心配もある。警察が適正に管理することが大前提だ」と話した。
警視庁では、小型のウェアラブルカメラを交通取り締まりや職務質問、雑踏警備などに活用している。
10月下旬のハロウィーンでは、仮装客が詰めかけたJR渋谷駅周辺の警備にあたった警察官の頭部や胸に装着させ、現場の様子を撮影する取り組みを試験的に行った。撮影された映像は同庁本部に送られ、人の流れや混雑具合を把握するために使ったという。
警察庁は13都道府県警の地域、交通、警備の3部門にカメラ計76台を配備し、8~9月に試験運用をスタートさせた。カメラは制服の胸元やヘルメットなどに取り付け、撮影中は赤いランプや腕章で周知する。映像は地域と交通が3か月、警備が1週間程度で消去する。プライバシー保護のため、住宅や事務所内では撮影せず、性犯罪の被害者らに話を聞く場合は撮影を中断できる。試行結果を検証し、本格導入を検討する。
カメラを取り入れる狙いの一つに、深刻化するカスハラの問題がある。
近年は、警察官が相手から大声で侮辱されたり、土下座を強要されたりするほか、職務質問の様子を撮影した動画がSNSで拡散されるケースが相次いでいる。ある県警の幹部は「心身ともに疲弊する警察官も少なくない。緊急性の高い事案への対応が遅れるなど、業務に支障が出ている」と明かす。
京都産業大の岡部正勝教授(警察行政法)は「ウェアラブルカメラは、相手も撮影されていると認識できるため不当行為の抑止にもつながる。プライバシー保護などデータを適切に管理した上で、警察業務に活用していくべきだ」としている。