《スクープ》前駐中国大使に仕掛けた中国の盗聴工作 舞台となった北京の日本料理店経営者が証言 機密指定の情報のはずが当の大使が暴露、大騒動の一部始終

高市早苗・首相の台湾有事を巡る「存立危機事態」答弁後、日中関係は緊迫の度を増している。そんななか、中国の日本に対する”ある工作”が明らかになった。しかも、それを暴露したのは他ならぬ日本の前駐中国大使だったのだ。外務省も巻き込み大騒動となったその工作の全貌について、本誌・週刊ポストは北京の日本料理店店主から貴重な証言を得た――。【前後編の前編】
地下に潜んで大使の会話を聞く
中国は高市首相の台湾有事発言に対して批判のボルテージを上げ、国連安全保障理事会では中国の国連大使が、「時代に逆行する許しがたい発言」と撤回を求めた。
時代に逆行はどちらなのか。次の証言を聞いていただきたい。
「北京に戻った時、日本の大使館の偉い人から呼ばれて、『何かあったら、ちゃんと守るから』と言われたんです。それまで日本に一時帰国していて、携帯電話もなくしていたから、そんな騒ぎになっていたことを私は知らなかったんです」
そう語るのは北京の日本料理店経営者だ。図らずも中国による対日盗聴工作の渦中に巻き込まれてしまった人物である。
大使館が慌てた理由は、日本側が中国の工作を具体的に掴んで機密指定していたとされる情報を、よりによって日本の垂秀夫・前駐中国大使が暴露してしまったことだった。
垂氏はチャイナスクールと呼ばれる外務省の中国語研修を受けた外交官では異色の対中国強硬派として知られ、香港総領事や日本台湾交流協会台北事務所総務部長なども歴任。中国・モンゴル課長時代に起きた尖閣諸島での中国漁船衝突事件の際には、超法規的に中国人船長を釈放させた菅直人内閣に「そんなことをすれば、政権は持ちません」と抗議した。
2020年9月から2023年12月まで駐中国特命全権大使を務めて帰国した前大使はその後、月刊誌『文藝春秋』(2024年2月号)の連載インタビューで中国の工作をこう語ったのだ。
〈私が利用した日本料理店に盗聴器を仕掛けられたこともあります。大使館近くの店で会食をした際、私が到着する前に北京市国家安全局の職員がやってきたそうです。用意していた部屋を見て、「ここは盗聴器が仕掛けにくい」と違う部屋に変更させて、監視カメラと盗聴器をセット。地下の部屋に潜んで私たちの会話を聞いていた。そして、日本料理店の関係者は、「口外してはならない」という書類にサインをさせられたのです〉
工作があったのは垂氏が中国大使に就任して2年目の2021年の春節(中国の旧正月)のことだった。