警視庁が匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)が絡む特殊詐欺事件摘発に力を入れている。10月の組織改編以降、グループの中核的人物に当たる「首領」級の暴力団組員を相次いで摘発し、暴力団の関わり方も明らかになってきた。一方で、さらに上位にいる首謀者がいるとみており、警察当局は詐欺組織の実態解明や上位者の特定に全力を挙げる。
グループトップは暴力団の4次団体組員
組織改編でトクリュウ摘発のために新設された特別捜査課は12月、指定暴力団住吉会系4次団体組員(36)を逮捕。組員は特殊詐欺事件の受け子グループのトップに当たる首領級で、実行役に指示をしていた。
捜査関係者によると、その下には、同会系5次団体の組員(25)がおり、さらにこの2人の下で、当時19歳の少年が受け子を統括。2人に渡すための詐取金を回収していた。少年は同会5次団体に所属する傍ら、トクリュウのリーダー格でもあり、14~19歳の少年らで構成される複数のトクリュウをまとめていた。
組員らは、息子や医者らをかたる手口で、令和5年9月~6年3月、4都県で約5千万円をだまし取っていたとみられる。被害金の9割以上は少年を通じて組員2人に渡り、末端の実行役はわずかな報酬しか受け取っていないとされる。
組織の枠を超えて〝共存〟の構図も
ときに、別の組織が詐取金を分かち合うような形で〝共存〟しているような実態もみられた。
警視庁は5月、高齢者から現金300万円をだまし取ったとして、長野県にある指定暴力団山口組系4次団体組長(42)を詐欺容疑で逮捕。当初、組長という立場もあり、受け子グループのリーダー格とみていた。
一方で、組織の実態解明を進めるうちに、男は中核的人物ではなく、配下の受け子のリクルーターを通じて、グループと関係し、〝利益〟の一部をかすめ取っていたとみられる。11月、実際に首領級の役割を果たしていた、同じ長野県に拠点を置く山口組系3次団体本部長(43)を詐欺容疑で逮捕した。捜査幹部は「地元が同じ暴力団同士や、不良仲間が結びつくことがある」とみる。
警視庁のターゲットは「本当の首魁」
2つの事件では、受け子グループの実情が明らかになった一方、共謀関係にあるかけ子グループの全容は見えない。特殊詐欺はかけ子や受け子、現金の回収役など分業制が進み、かけ子側が複数の受け子グループと関係を持つケースもある。
「受け子グループのトップが組員の場合、暴力団内部の規律で身内のことを明かさず、関係するかけ子グループについて供述を得られにくい面もある」(捜査幹部)と話す。
捜査関係者によると、被害者をだますかけ子は「技術」が必要なほか、被害者に電話をかけるための携帯電話や拠点などを整える必要がある。人材確保と道具の調達を含めた環境整備は容易ではない。
カンボジアのかけ子拠点設置に、住吉会系組員が関与していたことも明らかになっている。捜査当局は、暴力団が持っている国境を越えた裏社会との人脈や、人材斡旋(あっせん)のノウハウなどが特殊詐欺の組織作りに寄与しているとみられる。
ある捜査幹部は「人員集めからカネの処理まで構図を描ける人間は限られるはず。『首領』を摘発しても、『本当の首魁』に捜査の手が及んでいない」と指摘し、さらなる上位者の摘発に力を入れるつもりだ。