昭和20年8月15日、昭和天皇による「終戦の詔書」に続いてラジオで放送された「内閣告諭」を録音したレコードが、埼玉県の個人宅に保管されていることが分かった。当時、日本放送協会は放送内容を録音したが、米軍の進駐に備えて録音盤を破棄した。そのため音源はないとされており、専門家は「大変貴重、かつ画期的な発見だ」と話している。
一般に玉音放送といえば、昭和天皇による「大東亜戦争終結に関する詔書(終戦の詔書)」の4分半を指すが、放送全体は37分半に及ぶ。内閣告諭は鈴木貫太郎首相による国民に対するメッセージで、苦難に耐えて戦争を終わらせることや軽挙妄動を避けるよう呼びかける内容だ。終戦の詔書の後、日本放送協会の和田信賢アナウンサーが読み上げた。
埼玉の古物店で販売
当時を知る関係者らの証言によると、終戦の詔書を含めた玉音放送全体は録音班の女子挺身隊員によって録音されたが、翌16日、敗戦に伴う米軍の進駐を恐れて破棄された。終戦の詔書のみ、宮内庁が平成27年に公開したものなど音源はあり、今でも聞ける。それ以外の部分はこれまで音源はないとされ、原稿のみがNHK放送博物館に保存されていた。
今回確認された録音盤は、さいたま市のレコード収集家、高氏貴博氏(47)が所有しており、15年ほど前に埼玉県和光市内の古物店で購入した。古いレコードが30枚ほどまとめて販売された状態だったといい、その中の1枚に「内閣告諭 和田放送員」と手書きのラベルが貼ってあった。高氏氏は「ないはずの音源だとすぐに気づいた」と語る。
レコードの状態から冒頭部分は再生できなかったが、内閣告諭のほぼ全文が録音されていた。残されていた原稿には「『ソ』連邦」となっているが、実際には「ソビエット連邦」と読み上げていたり、原稿上の「先達トナラム」の部分を「先達ならむ」と「ト」を読み飛ばしていたりなど、新発見もあった。
「JOAK」と刻印入り
内閣告諭のほかは、昭和16年12月のフィリピン攻撃のニュースや、昭和15年の紀元2600年記念式典の詔書などで、いずれもラジオ放送を録音したものだった。東京放送局のコールサインだった「JOAK」と刻印入りのラベルが貼られたレコードもあり、放送関係者が重大ニュースなどの節目に録音した可能性がある。
古物店には遺品としてまとめて持ち込まれたらしく、元の持ち主の詳細は不明だ。ただ、レコードは当時流通していたアルマイト盤なうえ、高氏氏によれば、仮に用意できても機材の問題から上書き録音するのが難しく偽造は考えられないという。(大森貴弘)
日本ラジオ博物館の岡部匡伸館長の話
電波の受信状態が変わるフェーディングによる音量の変化も聞き取れ、ラジオからの録音で間違いないだろう。日本のラジオ放送は音源が残っていないことが研究者にとって悩みの種だ。内容そのものは文字にしたものがあるが、実際の放送に流れた音声を聞けるのは大変貴重で、この音声を基に研究が進むことも期待できる。