和歌山県白浜町のアドベンチャーワールドから、長年観光の顔として愛されてきたジャイアントパンダ4頭が中国に返還されて半年近くが経過しました。愛くるしい姿で年間300万人もの観光客を魅了してきたパンダがいなくなった今、白浜町は30年ぶりの「パンダ不在」という状況に直面しています。
夏は海水浴場で人気の白浜町ですが、パンダ返還後の閑散期、初めての冬をどのように乗り越えようとしているのでしょうか。“パンダ依存”は変わったのか?新たな観光を模索する人々の姿を追いました。
アドベンチャーワールドでは、今も120種類、1600頭の動物が飼育されています。1歳の「フタユビナマケモノ」や今年生まれた「エンペラーペンギン」の赤ちゃんなど、新しい命も誕生しています。しかし、来園者の中には、今もパンダを期待して訪れるケースが少なくありません。
パンダが飼育されていた施設では、レッサーパンダが飼育されるようになりました。パンダ返還直後の今年7月から展示を開始。希少動物の繁殖・育成を目的とした専門施設で飼育することによって、世界的に貴重である「レッサーパンダ」の育成を国内外の動物園の間で協力しておこなっているといいます。
またパンダの新たなイベントも始まっています。かつてパンダたちがいた運動場では、パンダの飼育体験ができるツアーが開催されています。体重や食事量といった日々の細かな記録など、飼育員が行っていた作業を擬似体験することができるプログラムです。パンダの採血なども、長年飼育を担当したスタッフがパンダ役で動きを再現し、リアルな飼育を体験することができます。
パンダ飼育歴13年 品川友花さん
「私たちがどういう思いでパンダを飼育してきたかを知っていただいて、ジャイアントパンダの命を未来へつないでいくという意義を感じ取ってもらえたらうれしい」
パンダたちの魅力は今もたくさんの思い出を残し、白浜をつないでくれます。
タクシー運転手
「お客さんの入りは悪くなった」
土産物店の店主
「パンダがいなくなったらやっぱりパタッと止まりました。じわじわと減っていった」
地元からは不安の声が漏れ聞こえます。白浜町内の温泉組合に加盟する21施設の今年7月の宿泊者数は、前年の同じ時期と比べて約2割にあたる1万人が減少したといいます。
町内の温泉組合では今年10月、新しい取り組みを始めました。指定の施設に2回以上宿泊した人が回せる「ガチャガチャ」を設置。白浜の観光施設で使える2000円分の利用券など、外れなしの景品が当たる仕組みでリピーターを増やす作戦です。
白良浜近くの旅館では、パンダのぬいぐるみやパンダ柄の布団など、パンダが散りばめられた「パンダルーム」を今も続ける一方で、食事にさらに力を入れるようになりました。
冬限定の懐石料理のメニューを開発し、地産地消にこだわった食材を使用する「花の玉手箱」という料理も提供しています。「ちょっと変わったもの」「ちょっと趣向の違うものが欲しい」という顧客の声に応える取り組みです。
南紀白浜 花鳥風月 石田勝己 総支配人
「なかなか口に入らない食材をたくさん磨き上げ、メニューの数をいくつか作り、お客さんに満足してもらうのがリピーターづくりのポイントになってくる」
白浜町はパンダ返還前から、町ならではの体験を通して“子どもたちが学べる観光”を打ち出していて、その一つが「保育園留学」です。神奈川県から訪れた濵谷さん一家は、1週間の休暇で白浜町に滞在しました。その間、6歳の娘・結萌(ゆめ)ちゃんは、町内の保育園に通いました。
保育園留学とは1~2週間、家族で地方に滞在し、地元の保育園に子どもを通わせている間、親はテレワークで働きながら暮らしを体験するものです。
キラボシ保育園は今年4月から受け入れを始めました。この保育園はアドベンチャーワールドのスタッフのための企業内保育園で、なんとアドベンチャーワールドが園庭になっています。開園前に散歩をしたり、動物と触れ合うことができる特別な環境が魅力となっています。
結萌ちゃんが保育園で遊んでいた頃、家族は今年10月から始まった「食の体験」に参加しました。海を目の前に、地元の漁師が釣ったばかりの新鮮な魚とイセエビを鍋にして味わいました。事業に参加した地元の漁師はー
漁師 小出誠さん
「一番大きいのはやっぱりアドベンチャーワールドのパンダがいなくなって、白浜町自体が元気がなくなってきている。もっと皆さんが知らない海、山、川、熊野古道もあり、美味しい魚も釣りたてを食べられる。そういう隠れた白浜町、和歌山県をもっとPRして、もっと活性してくれたら一番うれしいと思ってこの事業に参加した」
体験を終えた濵谷さん一家はー
濵谷美奈子さん
「日常に海や山や自然が身近にある生活をちょっとでもできたことが、すごくいい体験になったかな」
濵谷和輝さん
「娘たちもまた連れてきたいし、今度、長男が保育園留学できる年になって、時間ができたら行きたい」
当初は若い世代に向けて始めた保育園留学に、新たに始めた食体験。まちづくりにどう生かそうとしているのでしょうか?
白浜町総務課 鳴尾豪係長
「これからの白浜は、今ある観光資源ももちろん、地域にいる面白い方、楽しい方、優しい方、もう一度会いたいから行ってみようという町にどうすればなっていくのかを求めたい」
パンダが残してくれた観光資源を活かしつつ、地域に隠された魅力を発信する。保育園留学や食の体験など、観光をあらゆる角度から見つめ直すことで、白浜はパンダ頼みから少しずつ変わろうとしています。
(「かんさい情報ネットten.」2025年12月16日放送)