アジア最大の犯罪組織を追っていったら…行き着いたのは北海道・ニセコ 10億円別荘の所有者は誰? 正体は超大物の親族だった

世界有数のスキーリゾートとして訪日客が殺到する北海道・ニセコエリア。そこに、あるアジアの国の政権中枢に近い一族が所有する高級別荘がある。推定10億円規模。もちろん、物件購入自体は違法ではない。だが、リゾートの国際化が急速に進む中、日本の有名観光地を取り巻く状況も変化しているようだ。超富裕層の別荘地を取材して垣間見えた実態とは。(共同通信=武田惇志、北藤稔道)
「プリンス・ホールディング・グループ」が本社としていたプノンペンのビル=2025年11月(共同)
▽10億円規模の別荘地 私たちがニセコに目を向けるようになったきっかけは、アメリカが制裁リストに加えたある企業の取材だった。カンボジアの華人系企業「プリンス・ホールディング・グループ」。アメリカ政府は、大規模な投資詐欺や資金洗浄など国際的な犯罪に関与したと指摘。「アジア最大級の国際犯罪組織」と名指ししていた。 トップはチェン・ジー会長。中国系でカンボジア国籍を持つ。カンボジア政府に食い込んで首相顧問も務めていたとされ、公爵の称号も得ていた。だが、カンボジア政府は2026年1月6日にチェン会長の身柄を拘束し、中国に引き渡した。その後の消息は伝わっていない。
身柄を拘束されたカンボジアの華人系企業「プリンス・ホールディング・グループ」のチェン・ジー会長(中央)。中国国営中央テレビが1月8日放映した(同テレビの電子版から、共同)
取材の中で、このチェン会長が、日本の東京・北青山の高級マンションに登記上の住所を置いていたことが判明する。たびたび日本を訪問していたらしい。さらに、幹部が大阪のタワーマンションに住所を登記していることも分かった。 このグループは、実は日本に根を張っているのではないか。そこで「カンボジア」をキーワードに、関連する日本国内の土地・建物登記を調べてみようと考えた。 その過程で、こんな情報を得た。 「北海道のニセコにもカンボジアの関係者がいるらしい」 この情報を精査して浮かび上がったのが、ニセコエリアの高級別荘だった。 入手した登記簿などによると、別荘は2階建てで総面積は計約430平米。ベッドルームと浴室は6つずつある。土地・建物合わせて10億円規模とみられる。現在の所有者は、これを昨年3月に一括で購入したようだ。住所はカンボジア・プノンペン。名前はフン・マリー氏。カンボジア前首相のフン・セン氏の次女だ。
息子のフン・マネット首相(右)と話すフン・セン氏=2025年6月、カンボジア・プノンペン(AP=共同)
フン・セン氏はただの政治家ではない。泥沼となった同国の内戦を生き抜き、軍事指導者として台頭。首相として1985年から38年間、カンボジアを統治してきた。2023年に長男のフン・マネット氏を自身の後任首相として禅譲したため、まるで世襲の王国のように見られ「フン・セン王朝」とやゆされた。今なお、最高権力者として事実上の院政を敷いているとみられている。 現首相のフン・マネット氏をはじめ、フン・セン氏の子どもたちはカンボジアの政財界に多大な影響力を持つ。フン・マリー氏もショッピングモールの経営者として知られる。 そんな一族がなぜ、ニセコの物件を所有しているのか。実際に別荘使用の実態はあるのか。私たちは現地を訪ねてみることにした。

▽絶好の場所にある別荘 札幌市中心部から車で約2時間。問題の別荘地は、ニセコエリアへの入り口に位置していた。雄大な羊蹄山を何の障害物もなく見渡せる絶好の場所にある。足を運んだ1月上旬は雪が降りしきった直後。絶好のスキー日和だった。 建物は2階建てで三角屋根の西洋風。玄関側の表一面がガラス張りだった。室内には暖色のルームランプがともり、一面の銀世界を優しく照らしている。1階にはガレージも付属していた。 周囲には似た構造の別荘が10件ほど建ち並び、レストランも併設している。ほかの別荘に出入りする利用者に話しかけると、多くが中国人だった。 距離を置いて別荘からの車の出入りを眺めていると、「わ」ナンバーのレンタカーが現れた。 しばらくして車から男性が降りてきたので、英語で声をかけた。 「フン・セン一族の関係者の方ですか?」 男性は流ちょうな英語で応答した。一族の関係者と認めた上で、こう言って立ち去った。 「家族でスキーに来ているだけだ。記者に話すことは何もない」 この男性は、後に資料と照合した結果、フン・マリー氏の夫のソック・プティブット氏と判明した。アメリカの軍事学校出身で、コングロマリット企業「ソーマグループ」のオーナーだ。カンボジア政府の高官を務めたこともある人物だった。
訪日客らで賑わう北海道倶知安町のスキー場付近=1月、尾崎純子撮影
車両にはフン・マリー氏とみられる女性も乗っていた。冬の休暇に家族水入らずで、ニセコを訪れたのだろうか。 カンボジア在住の情報筋によると、フン・セン氏の子どもたちが冬に訪日することは、国内でも知られているという。 「年中暑い国なので、雪山でのスキーが好きみたいなんです。ニセコに別荘があるとは知りませんでしたが、とにかく(一族には)お金があり余ってますから。アメリカやオーストラリアに不動産を所有しているという噂もあります。日本で所有していても不思議ではありません」
訪日客らで賑わう北海道倶知安町のスキー場=1月9日、尾崎純子撮影
▽「VIPも招かれる外国人の食事会」 カンボジアの政権中枢にいる一族がニセコに高級別荘を持っている。この別荘群のほかの所有者はどんな人たちなのか、興味がわいた。 登記情報を基に確認していくと、所有者はアジア各国にまたがっていた。 香港やシンガポール、タイの個人や法人などだ。タックスヘイブンとしても知られ、国際的な投資拠点となっている英領ヴァージン諸島に登記された法人も名を連ねていた。 登記情報からは、ニセコエリアの別荘地が日本人向けの一般的な別荘開発とは異なり、国境を越えた国際資本、しかも超富裕層の受け皿になっている実情がうかがえる。

北海道倶知安町によると、ニセコ町と蘭越町を含むニセコエリアの外国人宿泊数は、2023年度で延べ約74万人。スキー場近くの道路沿いを歩けば英語や中国語が飛び交い、日本人の姿はまばら。「まるで異国」などと報道されることも多い。 ラーメンは2千円、サンドイッチは5千円。「ニセコ化」とも称される外国人バブルの一端には、フン・マリー氏に代表されるような、各国の政財界に影響力を持つ超富裕層の姿があったのだ。 以前からニセコエリアに住む人々も、そうした変化を肌で感じているようだった。ある日本人住民は、こんな話を明かした。 「このあたりの別荘地ではよく、外国人が集まる食事会が開かれていて、VIPと言われるような人たちもたびたび招かれています。私も以前、『中国人のVIP』と称される人物に引き合わされたことがあります。一体どんな人物なのか、顔を見ても分かりませんでしたけど。でもカンボジア政府の大物まで関係しているとは知りませんでしたね」
物価高騰するニセコエリアの飲食店=1月9日
その後も周辺で取材を続けようと試みた。だが管理人とみられる外国人男性が現れると、英語でこうとがめられ、すぐに立ち去るよう促された。 「ここはプライベートなエリアだ」 交渉しようとしたが、取りつく島がない。 現時点で取材はここまでだが、ニセコエリアに世界中から人と資本が集まり、バブルがヒートアップしている様子は垣間見えた。各国の要人クラスの超富裕層も熱い視線を送り続けている。
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