世界で核兵器使用の脅威が高まる中、フランスのマクロン大統領が2日、保有する核弾頭数を増強すると表明した。2023年5月の主要7カ国首脳会議(G7サミット)で広島を訪問し、原爆資料館の遺品や被爆者の証言から核被害の実相に触れたにもかかわらず、核抑止力の強化を打ち出したことに、広島と長崎の被爆者からは怒りと落胆の声が上がった。
マクロン大統領は当時、原爆資料館の芳名録に「広島で犠牲となった方々を追悼する責務に貢献し、平和のために行動することだけが私たちに課せられた使命」と記していた。
6歳の時に広島で被爆した田中稔子さん(87)=広島市=は「資料館で学んだことを忘れたのか。もう一度訪れて、核兵器の悲惨さについて知るべきだ」と憤った。これまでに約80カ国で核兵器廃絶を訴え、08年にフランスでも被爆体験を語っている。「みんな真剣に耳を傾け、核の恐ろしさを知ってくれた。今回の表明はじくじたる思いだ」と述べた。
日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)代表理事の田中聡司さん(81)=広島市=も「怒りを禁じ得ない」と非難した。25年5月、フランス南東部のグルノーブル市などで被爆体験を語った。核軍縮に取り組むよう大統領に求める要望書も市長を通じて提出したという。「相次いで戦争が起きている中で、今回の表明はさらに世界を危うくする行為。阻止しなければならない」と訴えた。
長崎原爆の被爆者も警戒する。25年1月に現地の平和団体から招待を受け、フランスで被爆体験を語った日本被団協の田中重光代表委員(85)=長崎市=は「核兵器を増やしたら平和が来るということはなく、危険が増加する。核兵器の数を増やすよりも、もっと国家間で対話と協調をしなければならない」と話した。
マクロン大統領はフランスを含む欧州9カ国で連携した防衛計画を明らかにしている。被爆者の城臺(じょうだい)美弥子さん(86)=長崎市=は「フランスだけでなく他国も便乗するのが怖い。日本国民も『やっぱり核を持っておかんば危ない』と思うのではないか」と不安を募らせた。
10歳の時に被爆した松本隆さん(91)=福岡市=も危機感を示したうえで日本政府や政治家に対し、「世界情勢にのまれず、戦争被爆国として何をすべきか、腹を据えて考えなければならない」と注文した。【安徳祐、尾形有菜、日向米華】