「亡くなった36人は『運がなかった』」と言い放つ被告 被害者の兄はやり場のない憤り「全く関わりのない人間でした。それでも、突然命を奪われてしまった」【京アニ放火殺人事件⑤】

2019年7月、京都市伏見区で起きた京都アニメーション放火殺人事件。この事件で、多くのクリエイターの尊い命が奪われました。
その1人、渡邊美希子さん(当時35)は、京都アニメーションを代表するアニメーターで、美術監督も務めるなど、多くの作品で活躍していました(【画像】に渡邊美希子さんの作品も)。
美希子さんの兄・渡邊勇さんは、家族を失った苦しみに加え、法廷での被告の言動にも心を痛めました。被告は、あまりにも無責任な言葉を言い放ったのです。
(2026年2月11日「犯罪被害者支援を考える市民のつどい」講演より)

※この記事は【1】【2】【3】【4】【5】の【5】です。
亡くなった36人に 被告は「運がなかった」と言い放った
(渡邊勇さん)

「また、36名もの方が亡くなったことに対しては、『運がなかった』と言い放ちました。
自らが引き起こした結果に対して、あまりにも無責任な言葉を聞いたとき、本当にしんどい感情がこみ上げてきました。
裁判を通じて、彼が過去にコンビニ強盗などで前科があったこと、訪問看護や生活保護などの支援を受けていたことも知りました。
なぜ、社会から多くの支援を受けていた人物が、このような凶行に及び、大切な妹の命を奪わなければならなかったのか。苦しくて、情けなくて、やり場のない憤りを覚えました。
一人で裁判に臨まなければならなかったら、精神がおかしくなっていたかもしれません。辛いとき、憤りを感じたときに、それを共有できる家族がいたこと、そして、裁判に付き添ってくださる被害者支援の制度があったことに、心から感謝しています」
「加害者も被害者も生み出さない世界へ」
(渡邊勇さん)

「彼のことは決して許すことはできません。しかし彼が言った『今のような環境があれば、事件は起こさなかった』という言葉は、憤りとともに、私たちに一つの問いを投げかけているようにも感じました。
どこかで、彼が立ち止まるタイミングはなかったのでしょうか。
もし彼に心から大切に思う人がいて、『この人に迷惑をかけたくない』と思えていたら。。。孤独や孤立によって自暴自棄にならなければ、あのような事件は起きにくかったのではないでしょうか。
一番に望むのは、『加害者も被害者も生み出さない世界』です。それは、社会のルールや政治、経済、そして教育や文化、社会全体の空気感といった、様々なものが関わってくるのだと思います。
事件後、僕自身の考え方も変わりました。以前は、『自分の家族や友人、同僚など、身近な大切な人たちが幸せであればよい』と思っていました。
しかし、今回の事件の犯人は、妹からすれば全く関わりのない人間でした。それでも、突然命を奪われてしまった。
この経験を通じて、『自分の周りだけではだめなのだ』と痛感させられました」
美希子さんと同じ誕生日に生まれた我が子
(渡邊勇さん)

「不思議なことに、事件後に生まれた僕の子どもは、美希子と全く同じ誕生日に生まれてきてくれました。予定日でもなかったのに、です。『ちゃんとしっかり生きていけよ』と、妹に言われているような気がして、その子の笑顔に日々、元気をもらっています。
私たちの話は、暗い話かもしれません。でも、ただ暗い話として持ち帰っていただくのではなく、この話をきっかけに、皆さんの周りにいる大切な人の存在を、改めて感じていただけたら、これほど嬉しいことはありません。
そして、まずはあなたの大切な人に『大切だよ』と伝えることから始めていただけたらと、切に願っています」
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