「炊き出しは女性」と記載の防災マニュアル 性別で負担が偏る災害時

「炊き出しは女性の担当」。そんな文言がある地域の防災マニュアルは珍しくない。
東日本大震災の被災地などでは、男性によるがれき処理が有償だった一方、女性の炊き出しは無償で、被災した女性の生活再建が遅れるなどの問題が多く見られた。
解決には防災に女性の視点を取り入れることが不可欠だが、北海道内には深刻な現状が横たわる。
実は危険な「重労働」
防災啓発活動を行うNPO法人「防災したっけ」(札幌市)の水口綾香代表(44)は、「炊き出しは家庭料理とは全く違う重労働」と指摘する。
50人分の非常用の米を用意するには約9リットルの水が必要だが、余震の恐れがある中、大鍋で沸かした湯を注ぐのには危険が伴う。
豚汁100人前を作るにも数キロの食材が必要で、3食を同じ人が担当し続けるのは困難だ。
水口さんは、自治会による避難訓練などで避難時を想定した炊き出しを男女問わずに体験してもらう。
性別で役割を固定化しないことの重要性を伝えるためだ。「地域で受け継いできた防災マニュアルだからこそ、『いつものこと』と受け入れがちだが、結果として災害時に大きな負担の偏りにつながる」
改善のためには、行政や防災組織のリーダーに女性を増やすことが急務だ。
新たに加わった女性リーダー
だが、道内市町村の地方防災会議の女性比率(2025年)は6・3%で全国最下位。道の防災会議も、18・8%(26年)にとどまる。
道の担当者は「小さな自治体では女性リーダーが少なく、防災会議のメンバーも男性が多くなる」と打ち明ける。
そんな中、水口さんとともに今年度、新たに道の防災会議に加わった女性がいる。釧路市を拠点とする市民団体「チームくしろ防災女子」の金子ゆかり代表(58)だ。
金子さんは建設会社を経営する傍ら、学校教諭や介護施設の調理師などさまざまな女性とともに防災啓発に取り組む。
重視しているのは「防災に関心を持つ入り口を楽しく広げること」。防災ポーチ作りの講座でポーチに好きなシールを貼って子供も愛着を持てるようにしたり、タブレット上で防災について遊びながら学べるデータを配布したりと、メンバーの自由な発想を取り入れている。
金子さんは2月、道の防災会議に初めて出席した。今後に向け「少人数で具体的な話し合いができる小会議にも参加して、発信していきたい」と意気込む。
行政は「良い耳」を
防災会議などの要職に女性を増やすことと同時に、防災政策のあり方自体も見直すべきだという声もある。
「弱者の声を拾うボトムアップ型であるべきだ。被災地では我慢が当然とされがちだが、人間らしく生きることを目指すなら、一番弱い人に寄り添う包摂が重要だ」。宮城学院女子大の天童睦子名誉教授(災害女性学)はそう提言する。
災害時には、女性や子供、高齢者、障害者ら、平時から社会的に弱い立場の人にしわ寄せが起きるという。避難所や仮設住宅での性犯罪やDV(ドメスティックバイオレンス)、調理や介護など無償労働の負担など、周囲に打ち明けにくい悩みを抱える被災者は少なくない。
天童さんは言う。「女性の中にも多様性があり、委員の頭数を増やせば解決する訳ではない。行政には、防災会議にはいないような人の声も聞く『良い耳』を持ってほしい」【後藤佳怜】