スカウト団のスパイに転落した元警部補、不倫発覚で捜査外され…「自暴自棄になり一線を越えた」

国内最大級のスカウトグループ「ナチュラル」に捜査情報を漏えいしたとして地方公務員法違反(守秘義務)に問われた元警視庁暴力団対策課警部補の判決が25日、東京地裁で言い渡される。公判では、捜査のために「匿名・流動型犯罪グループ(匿流(トクリュウ))」に接近したものの、相手に対する油断と自らの組織への不満から「スパイ」に転落していく捜査員の姿が明らかになった。(貞広慎太朗)
「情報漏えいしたことは事実です。一切争うことはありません」。先月26日の初公判、上下とも黒のスエット姿にマスクをつけて出廷した神保大輔被告(43)はこう述べ、起訴事実を全面的に認めた。
検察側の冒頭陳述などによると、神保被告は2004年に警視庁に入り、20年から暴力団対策課に所属。23年10月頃からナチュラルの捜査を担うようになった。関係者の取り調べを担当する一方、組織トップの会長・小畑寛昭容疑者(41)(職業安定法違反容疑などで逮捕)と接触するなどしていたという。
24年2月頃には、ナチュラルが開発し、構成員だけが使用する通信アプリを入手したとされ、遠隔で保存データを消去できる匿名性の高いアプリで構成員と接触していた。
今月19日の被告人質問でナチュラル側と接触した理由を問われた神保被告は「相手の懐に入り、信頼を得て情報を取りたいと考えた」と語った。アプリで得た情報が逮捕につながることもあったなどと捜査の実績を強調した。
25年4月、神保被告は、不倫の発覚を理由にナチュラルの捜査から外れた。アプリを通じ、捜査用カメラの撮影場所や画像を漏えいしたとされるのは同月から7月のことだった。カメラは、警視庁がナチュラル側の行動を確認するために設置したもので、場所が筒抜けになれば拠点を移され、検挙が困難になる恐れがあった。
「漏えいのきっかけは何だったのか」。弁護人からそう聞かれた神保被告は「相手組織との関係が深まり、気が緩んだ」と言いつつ、「上司に意見が通らずに捜査を外された不満もあった。警視庁をやめようと自暴自棄になり、一線を越えた」と語った。神保被告は漏えいから半年後の同11~12月に逮捕・起訴され、懲戒免職となった。
事件では謎も残った。
検察側は冒陳で、24年11月頃、警視庁が構成員らの強制捜査を予定していたところ、着手前に突然、構成員が所在不明となる事態が起きたことを明らかにし、被告人質問で「(事態に)関係していないか」と追及した。これに対して神保被告は「全く関係しておりません」と否定した。
捜査の過程では、神保被告の自宅から900万円、事務机から45万円の現金が見つかり、一部からナチュラル関係者の指紋が検出されたという。この現金についても神保被告は「事件とは関係がない」とだけ述べ、詳しい説明を避けた。
実際の漏えい相手は最後まで明らかにならず、神保被告は被告人質問の冒頭、「家族への報復の危険がある」として話せないと明言。検察側が「何人とやりとりしたか」「通話履歴の相手は誰か」と質問を重ねたが、回答を拒んだ。
神保被告の一連の行動を踏まえ、検察側は論告で「捜査に従事する中で取り込まれ、スパイのような行動に出た」と指弾し、懲役1年6月を求刑。弁護側は最終弁論で、再犯の恐れはないなどとして執行猶予付きの判決を求めた。
「ナチュラル」とは…構成員1000人超、違反には制裁
ナチュラルは、スカウトした女性を全国各地の風俗店に紹介し、違法に紹介料を得ていた疑いが持たれている。どんな組織なのか。構成員が摘発された監禁事件の裁判資料などによると、1000人以上の構成員を抱え、年間の売り上げは40億円超に達する。匿名性の高いアプリで犯罪を実行させて中心人物らが利益を吸い上げているとみられ、警察当局は「匿流」と位置付け、実態解明を進めている。
1~4次団体に分かれており、各階層に複数の班が存在する。各班に「代表」や「幹部補佐」を置き、構成員間のギャンブルや金の貸し借りなどを禁じた「規約」を設け、違反した者に制裁を加えている。幹部が構成員を暴行・監禁する事件も起きている。
組織のトップとされる会長の小畑寛昭容疑者は所在不明だったが、全国に指名手配され、今年1月、偽名でホテルに宿泊していた鹿児島・奄美大島で逮捕された。違法な職業仲介のほか、スカウト活動を容認する対価として暴力団幹部にみかじめ料を支払った疑いも持たれている。