首相として選挙で自民党を”一強”へ導いた、保守派の政治家である「安倍晋三氏と高市早苗氏」。”安倍後継”である高市政権だが、その捉え方だけでは本質を見誤りかねない。両者の外交面での違いはどこにあるのか、元NHK政治部記者・解説主幹の岩田明子氏に聞いた。
* * * 外交は経験がものを言う世界です。首脳外交ともなれば、相手の首脳とどう信頼関係を築くか人間力が問われる。
安倍政権時代、何度も首相外遊の同行取材をしましたが、安倍さんは専門家から「外交の絶対音感がある」と評価されるほどのセンスがあった。
オバマ政権末期にリスクを取ってトランプ次期米大統領と会談し、「外交はなんでもシンゾーに聞く」と言わせるほどの信頼を得た。言葉通り、18年、米朝首脳会談前に相談があり、終了直後にエアフォースワン機中のトランプ氏から安倍さんに会談結果の報告が届いた。
G7サミットでトランプ氏と欧州が対立した時は、当時のメルケル独首相らから頼まれ、議長国でもないのに安倍さんが仲介し、首脳宣言をまとめたこともある。米国とイランの緊張が高まった2019年には、自らイランを訪問。西側首脳と滅多に会うことがなかったハメネイ師とも会談した。
卓越した外交力の源は若い頃から積み重ねた外交経験にあるのでしょう。父である安倍晋太郎・外相の秘書官を務め、官房副長官時代には時の小泉純一郎・首相の北朝鮮訪問に同行。総理になってからは地球を何周もしています。安倍外交の本質は日米同盟の強化、価値観外交、地球俯瞰外交にあり、強固な日米関係を世界の安定に活用した。
そんなスーパーマンの安倍さんに対して、高市さんは外務大臣や防衛大臣の経験もありません。就任してまだ半年の総理と安倍さんを比較することは意味がないうえ、国際情勢も激変している。
ただ、高市さんは今回の訪米でいきなり戦争当事国に乗り込むことになったが、首脳会談をなんとか乗り切った。外務省、経産省、防衛省等の知恵を結集した総力戦で米国産の原油を共同開発して購入し、第二弾の対米投資などトランプ氏が望む経済カードを切ったのが功を奏しました。
高市さんは外交的な勘がいいように見受けます。訪米前、PayPal創業者でトランプ氏にも影響力を持つピーター・ティール氏が滞日しましたが、首相官邸で面会した。スルーしてもおかしくないが、斬新な発想で知られ、影の大統領とも称される人物との接点を逃さない。ここに”サナエ外交”の可能性を垣間見ました。
【プロフィール】 岩田明子(いわた・あきこ)/千葉県出身。東京大学法学部卒業後、NHK入局。2002年、安倍晋三氏の番記者に。官邸や政党担当の他、外交取材多数。2013年から政治担当の解説委員を兼務。2022年7月、NHKを退局。近著に『安倍晋三実録』(文藝春秋、2023年)がある。
※週刊ポスト2026年4月17・24日号