全国各地でシカの食害が問題となる中、和歌山県内の林野庁職員が独自の対策を考案した。樹木の周りの地面に竹を敷き詰める仕掛けで、シカはつるつるとした表面に滑って近づけなくなる。10年近くかけた実験で効果が実証されたといい、自治体や林業関係者に活用を呼びかけている。(和歌山支局 津田啓生)
生息域40年で2・7倍に
同庁は、土砂崩れなどで地面がむき出しになった山の斜面について、モルタルで格子の枠を設けて地盤を安定させ、格子の内側に、30センチほどのケヤキやカシなどの苗木や、草を植える森林再生事業を行っている。
ところが、植樹してもシカに食い荒らされる被害が続出。侵入防止のネットを取り付けても食い破られた。金網は効果があったものの、設置費が高いなど、課題が多かった。
環境省や林野庁によると、ニホンジカの生息域は2018年度までの約40年間で2・7倍に拡大。24年度の鳥獣による被害面積約4000ヘクタールのうち、6割はシカが原因だった。草木がシカに食べられ、土や岩がむき出しになった山では、崩落が起きている。
シカの攻略法を思いついたのは、和歌山森林管理署の総括治山技術官、小林正典さん(47)。
15年に和歌山県田辺市内の現場でヒントを得たという。滑らかなモルタルで覆われた箇所にはシカが中に入った形跡がなかった。「ひづめが滑るのを嫌うのでは」と考え、植樹した苗木の周りに竹を並べる対策を考案。並べる間隔や角度を変えて実験を重ねた。
安価で丈夫、撤去作業も不要
竹を選んだのは、安価な上、丈夫で破損しにくいためだ。自然に朽ちるため撤去の必要もない。侵入防止の効果は2~3年という。
17~18年、田辺市内の山林(480平方メートル)に仕掛けを設置した上、ヤマグリやアラカシを植えた。
昨春、生育状況を調査したところ、区域内の約8割で森林が再生し、木の高さは5メートルほどに成長していた。一方、比較のため、仕掛けを設置しなかった別のエリアでは、木がほとんど育っていなかった。
小林さんは昨年11月、田辺市内の現場で、和歌山県内の自治体職員や林業関係者ら約80人を集め、仕掛けの詳細と成果を説明。滋賀県米原市の職員も参加したという。和歌山県の担当者は「これまでシカ対策に使っていたネットより丈夫で、維持管理の負担も少ない。有効な取り組みだと感じた」と話した。
小林さんは、2月に開催された林野庁近畿中国森林管理局の研究発表会で成果を報告し、入賞。現在、奈良県十津川村内にも仕掛けを設置している。
全国で深刻化するシカの食害。小林さんは「多くの場所で竹の仕掛けを活用してもらい、豊かな自然を守っていけたら」と語った。