[政治の現場]高市政権半年<2>
年度末が迫り、東京都心の桜が開き始めた3月23日。官房長官の木原稔(56)は首相官邸で、自民党参院議員会長の松山政司(67)、同幹事長の石井準一(68)と相対していた。
「不測の事態に備え、暫定予算を編成する方向で検討したい」
木原は事態打開に向けた一手をこう示した。2026年度予算の参院審議を巡る与野党協議が膠着(こうちゃく)する中、首相の高市早苗(65)がこだわってきた年度内成立は困難な情勢となっていたためだ。
この一言によって、年度内成立の断念が事実上、固まったが、木原は「引き続き年度内成立が必要」と強調し、高市の顔を立てることも忘れなかった。
根回しが不得手な高市に代わり、木原は与党との調整役を一手に引き受ける。記者に見えない内廊下で執務室を頻繁に行き来し、首相との相談を欠かさない。肝いりの外国人政策やクマ対策などの会議を仕切り、政権の要となっている。
「派手さはない」(自民ベテラン)ものの、防衛相や党政調事務局長などを歴任し、その調整力は与党や霞が関でも定評がある。「首相も木原の助言なら受け入れる」(周辺)とされ、高市も一目置く存在だ。
「国民に誤解を招くことになります。事実関係をきちんと発信しましょう」
政務担当の首相秘書官、飯田祐二(62)は4月5日の日曜日、スマートフォンから高市にメールした。ホルムズ海峡の封鎖でプラスチックの原料となる石油製品ナフサが供給できなくなるとして、「日本は6月に詰む」という誤った情報がSNS上に広がっていた。
「そうやな」。高市からはすぐに返信があった。飯田の提案を受け、高市は自身のX(旧ツイッター)に「少なくとも国内需要4か月分を確保しています。事実誤認であり、そのようなことはありません」と投稿した。
昨年6月まで経済産業次官を務めていた飯田だが、高市との関係は薄かった。長期政権を築いた安倍内閣に倣い、同省出身者から政務秘書官を探していた高市が、白羽の矢を立てたのが飯田だ。今や「飯田を通せばすぐに首相に案件が届く」と評されるほど、最側近にある。
「トライアングルで処理する案件も多い」と証言する関係者もいる。木原と飯田に、官房長官秘書官の茂木正(59)を加えた3人のことだ。
茂木は高市が経産副大臣だった頃に仕え、その後も事務所への出入りを許された数少ない官僚だ。40歳代の課長級を充てる例が多い官房長官秘書官に、経産省の審議官から高市の「一本釣り」で引き上げられた。
高市の下に側近を集めて官邸でほぼ毎日開かれる通称「正副長官会議」には、茂木も7人目のメンバーとして出席し、政権の意思決定に立ち会う。木原の脇を経産省出身の飯田と茂木が固め、3人のトライアングルが高市を支える。政権発足から半年たち、その構図が明確となった。
一方、財務省との距離感が目立つのも高市官邸の特徴だ。
2月27日の衆院予算委員会。衆院選公約に掲げた2年間の食料品の消費税減税を巡り、自民議員が「農林漁業者や飲食店、小売事業者などに大きな影響が生じる」と指摘すると、高市は思わず「飲食料品の消費税率ゼロの検討を加速するということで自民党は戦ってきた。難しい理由があるということを『某役所』が配っている」と口にした。
名指しこそ避けたが、高市に財務省への不信感があるのは明らかで、財務省内では「我々を抵抗勢力だと思い込んでいるのではないか」と衝撃が広がった。
ある政権幹部は語る。「長期政権を築くには予算を掌握する財務省を味方に付けることも必要だ。霞が関を一つのチームにするのがこれからの課題だ」(敬称略)
市川安保局長 面会最多
高市首相の行動を記録した読売新聞の「高市首相の一日」をもとに、昨年10月21日の政権発足から今月20日までの面会相手を調べたところ、最多は市川恵一国家安全保障局長の107回、2位は原和也内閣情報官の77回だった。
両氏は、外交・安全保障分野の機密情報を扱う。2度にわたる日米首脳会談への準備を重ねたほか、2月28日に始まった米国とイスラエルによるイラン攻撃を受け、緊迫する中東情勢への対応を連日、協議した。
閣僚で最多だったのは、3位の片山財務相で69回だった。首相が掲げる「責任ある積極財政」や給付付き税額控除のあり方などについて意見交換したとみられる。このほか、尾崎正直官房副長官、外務省の船越健裕次官が続いた。(敬称略)