動物園の焼却炉に妻の遺体を遺棄か「自供だけでは起訴はできない」遺体なしの立件にハードル【なぜ?元検察官の弁護士が解説】30代男性職員は「焼却炉に妻の遺体を遺棄して燃やした」と供述

北海道旭川市旭山動物園の焼却炉に妻の遺体を遺棄したとして、事情聴取されている30代の男性職員は、妻を「残らないよう燃やし尽くしてやる」などと脅していたとみられています。
聴取を受けているのは、北海道旭川市の旭山動物園に勤める30代の男性です。
男性の30代の妻は3月末ごろから行方不明で、男性は警察の任意の聴取に「焼却炉に妻の遺体を遺棄して燃やした」という趣旨の供述をしています。
妻は行方不明になる前、「夫から脅迫を受けていて怖い」と親族に相談していました。 その後の取材で、妻の関係者が3月30日までは妻の姿を確認したものの、その後、行方不明となり、4月に入ると会社にも姿を見せなくなったことが新たにわかりました。
警察によりますと、男性は妻と2人暮らしで、男性の自宅では26日に続き、27日も警察が家宅捜索を行っています。
元検察官の中村浩士弁護士に立件の可能性について聞きました。
【元検察官が解説】立件へのハードル
Q:遺体が見つかっていない場合、逮捕への最大のハードルは何か。 A(元検察官・中村浩士弁護士):通常は、ご遺体が発見されている場合には、司法解剖を実施して、死亡事実それから死因、これが特定されます。それに基づいて逮捕状が発布という流れになるんですが、今回はその最大の証拠たる遺体が発見されていませんので、死亡事実それから死因、これが証拠上特定できない、そもそも犯罪なのかというところから問題になりますので、非常に逮捕状発布のハードルが上がっていると、こういう現状があります。
Q:本人が認めていても、自供だけでは逮捕に踏み切れないことがあるのでしょうか。 A(元検察官・中村浩士弁護士):そうですね。自供だけでは起訴はできない。これが刑事訴訟法という法律の建前になってますね。 まず、自供というのはいつでも覆せますので、あの時話した話は誘導された、強制された、全くの虚偽であったと裁判で仮に弁解をした時に、自供以外の証拠で何を証明できるのかと、そこが大事になってくる。自供がなくても証明できる一定の証拠、これの積み重ねをしないと起訴には至れないという刑事手法の限界があります。
客観的証拠による「死亡の立証」は難航か
Q:自供には、どのような客観的な裏付けが必要になるのか。 A(元検察官・中村浩士弁護士):自供の裏付けとしては、まず死亡事実の裏付け、証拠ですよね。一定期間経過していること。それから、生存しているとすれば、当然、人との接触だったり、あるいはSNS更新だったり、何かカード支払いだったり、そういった生活実態があるのは通常ですけれども、こういったものがない。もう死亡していることが合理的に推認されると、こういった状況証拠、まずこれが必要になってきます。 また、殺人罪でということになるのであれば、例えば凶器の発見だったり、血痕、肉片、組織片、通常は殺害されたと認めるのが合理的であろうと、こういったことを推定させる証拠、これの積み重ねというのが必要になってきます。
Q:遺体がない中で、死亡していることをどのように立証していくのか。 A(元検察官・中村浩士弁護士):今回は、動物の死骸等を焼却して骨等まで溶解する、そういったかなり強い溶解炉で溶解したという報道が流れてますので、それが真実だとすると、骨片、肉片、こういったものが残ってない。あるいはもうすべて灰になってしまっているということで、DNA解析ということも困難な状況になっているとすると、なかなか死亡事実を裏付ける直接的な物証というものがないわけですね。 立証するのは難航することが予想されて、やはり失踪前後の生活実態、それから現在までの一定期間の経過、こういったところから裁判官が通常もう生存の可能性は著しく低いだろうということが合理的に推認できる、こういった状況証拠を積み重ねていくしかないのかなと思います。
殺人での立件「死因の特定」が重要に
Q:殺人を立証する場合は死因の特定も必要になると思いますが、それが特定できなくても殺人で立件できる可能性はあるのか。 A(元検察官・中村浩士弁護士):原則やはり死因を特定できないと、殺害態様、ひいては故意、ここが明らかになりませんので、起訴それから有罪のハードルというのは相当に高くなってしまう。無罪のリスクが高いことになりますよね。 ただ、完全に死因を特定できなくても、被告人の行為によって死亡したんだということが合理的に推認されるというところまできちんと立証ができれば、必ずしも死因の特定ということは、実務上厳格な要件が課されてるというものではないので、不可能というわけではないとは思います。
Q:殺人が証明できない場合、死体遺棄や死体損壊の疑いで逮捕するのが精一杯なのでしょうか? A(元検察官・中村浩士弁護士):やはり殺人で起訴する場合には、死因の特定というのが重要になってきますので、その特定ができずに死体遺棄あるいは損壊だけで起訴を諦めるというケースは実務上非常に多いんですよね。 ただ今回の場合、遺体自体が存在しないとなると、やはり死亡事実、それから遺棄、遺棄にあたっての運搬、こういったところを裏付ける客観証拠ですよね。失踪前後の生活実態、これを見て、もう死亡してることが明らかだということを裏付ける客観証拠。あるいは血痕が残ってる車両の捜索によって、そういった状況を証拠化して、死体を運んだということを推認させられるかどうか。そういった証拠収集の積み重ねというのが非常に重要になってくるかなと思います。