島根県奥出雲町の伝統工芸「雲州そろばん」が存続の危機に直面している。電子機器の普及で販売量が落ち込み、最盛期に約800人いた職人は10人ほどに激減。室町時代に中国から伝来し、長く学校教育にも用いられてきたそろばんを継承しようと、組合や町は過疎地などに移住して活性化に取り組む「地域おこし協力隊」の力を借り、作り手確保に必死だ。
奥出雲町は、「播州そろばん」で知られる兵庫県小野市とともに二大産地に数えられる。雲州そろばんは小型で持ち運びやすく、学校教育で主流の「五珠一つ、一珠四つ」のそろばんの元となった。江戸時代に誕生し、たたら製鉄が盛んなこの地域に訪れる行商人が各地に広めた。
明治時代から学校教育に取り入れられ、昭和には1人1丁が当たり前になった。最盛期は町内で年100万丁を製造していたという。しかし、1960年代に電卓が登場。少子化も相まって販売量は大きく落ち込み、職人は高齢化となり手不足で少なくなっていった。
雲州そろばん協業組合の職人は、今も全て手作業で製材や組み立てをしている。組合の岩佐俊秀代表理事(78)は「業界的には70代はまだ若手。私たちがやめてしまえばなくなってしまう」と焦りをにじませる。
組合は2021年4月、技術継承を目指し、地域おこし協力隊員として移住してきた北海道旭川市出身の信太直人さん(34)を職人として雇用。3年間の任期が終わった後も定住し、腕を磨いている。
昨年8月、新たに隊員の募集を始めた。岩佐さんは「今も全国から注文が届いている。受け継いできた産業を残すことは大変だが、使ってよかったと思える物をつないでいく責務がある」と力を込めた。