魚を突く漁具「ヤス」を使ったレジャーへの対応に自治体が苦慮している。コロナ禍やテレビ番組の影響で楽しむ人が増加する一方で、漁業者とのトラブルが目立ち、規制を求める声が高まっているためだ。水産庁は統一ルール作りに慎重な立場で、独自の対策を進める自治体もある。(鳥取支局 小西望月)
遊覧船と接触
透明度の高い海が広がる鳥取県岩美町。昨年7月、漁港の沖合で、海に潜ってヤスで魚突きをしていた男性と、乗客を乗せた遊覧船が接触し、男性が足の指を骨折した。遊覧船の船長は読売新聞の取材に、「波もあって潜っていることに気付けなかった」と話した。
県は、県の諮問機関「漁業調整委員会」が定めるルール(委員会指示)の中で、県内全域で禁止する方向で検討を始め、昨年9月にアンケートを実施。寄せられた26件のうち、15件が禁止に慎重な対応を求める意見だったため、県は航路に魚突きをする人が入らないためのルール整備を優先することにした。
県は、2026年度からヤスを使う場合、海に入る前に県に氏名や連絡先などを文書で提出させる試みを始め、4月下旬までに22件の届け出があった。文書には「船を見つけたら離れる」ことなどへの同意を盛り込んでいる。27年度には届け出の義務化を検討する。
4月には、魚突きを楽しむ人ら向けに注意点をまとめたアニメ動画を県公式ユーチューブで公開した。
鳥取県内で約5年前から魚突きを楽しむ鳥取市の会社員男性(44)は「漁師が漁をする早朝を避けて昼間に潜るなど関係を築く工夫をしている。どう共存するか、一緒にルールを考えていけばよいのでは」と話す。
密漁疑いも
魚突きは、10年頃からヤスなどを使って素潜り漁をするテレビ番組の影響で人気に火がついた。コロナ禍で3密を回避できるとして、さらに注目され、4年前に全国の愛好家による「日本スポーツスピアフィッシング協会」も誕生した。
人気の高まりで、トラブルも顕在化し、徳島県は21年12月、ルール整備を求める漁業関係者からの要望を受け、漁業調整委員会の委員会指示で魚突きを禁止した。22年に県が、県内の31漁協(26漁協が回答)を対象に実施した実態調査では、6漁協が「レジャー客らとトラブルになった」、8漁協が「アワビなどを密漁されている」と回答した。
長崎県もマナーに関するトラブルなどを受け、24年にゴムの反発力で発射機能を高めたヤスについて、「使用を認めない」と漁業調整規則に明記した。
旗を付けて
このように自治体ごとの対応になるのは、海のルール整備が各都道府県に委ねられているためだ。
水産庁管理調整課は「地域の実態に応じた対応が求められるため、地域ごとに必要な規制は異なる」とし、規制内容を都道府県に委ねる現状の漁業調整規則のあり方を妥当だとする。
日本スポーツスピアフィッシング協会は、魚突きをしている人の位置を海上から確認しやすいよう、「フロート」と呼ばれる旗を体や漁具に付けることを推奨している。大部春香代表会員は「清掃をはじめとする海のための活動にも取り組み、魚突きをする側も変わりつつある。漁業者と歩み寄っていければ」と話す。
浜田武士・北海学園大教授(漁業経済学)は「海で遊ぶ権利と、海で生きる漁業者の権利がぶつかる難しい問題だ。共存には、愛好家による団体などが自らでルールを策定し、守っていくことで、漁業者の理解を得る努力も必要になってくるだろう」と話した。
◆ヤス=長い柄の先に鋭利な金具がついており、勢いよく魚介類を突き刺して仕留める。先端の刃は1本から複数まで様々な種類がある。漁業権が設定された区域で対象となる魚介類を許可なくとると違法になる。形状が似ているが、投射して使うモリは、遊漁での使用は原則として認められていない。