【ロッキード事件発覚から50年】田中角栄の秘書官を務めた側近・小長啓一氏「失脚していなければ今の日本社会の姿は違っていた」 半世紀前から地方創生に取り組んた「列島改造」の先見性

“戦後最大の疑獄”と呼ばれたロッキード事件の発覚から今年で50年が経つ。なぜ田中角栄元首相は逮捕されたのか。もし、事件がなければ日本はどうなっていたのか。
「田中さんは総理復帰の意欲を強く持っていた」
角栄の国家ビジョンをまとめた『日本列島改造論』の執筆者の1人として知られる小長啓一・元通産事務次官(95才)は、角栄の通産大臣秘書官、総理大臣秘書官を務め、最も身近で田中政治を支えた。
「あの事件が始まった時に、田中さんの政治家としての力をなくそうという別の力が働いたのではないかと直感的に思いました。当時の田中さんはオールマイティというか、国内に逆らえる人はいなかった。そこにアメリカから矢が飛んできた。裏があるのではないか。本当に飛ばした人は誰なんだろうと。今でも疑問を持っています」
マスコミも反田中の論陣を大々的に張り、世論の評価も一変した。
「田中さんは総理復帰の意欲を強く持っていました。周辺もみんなそう考えていた。総理時代に内政では列島改造を進め、外政では日中国交正常化を成し遂げた。国民の人気も高く、総理に復帰すれば長期政権になったと思います。だから、『田中さんが再登板したら自分の出番がなくなる』と思った人たちがいたのかもしれません」
小長氏は首相秘書官当時、毎朝、目白の田中邸に通っていたという。
「毎朝、陳情が1日20件、1組3分でめまぐるしく来るけれど、丸紅幹部の陳情は記憶にあるが、ロッキード社の陳情は聞いたことがなかった。官邸では運輸省関連の(航空機などの)調達で役所を呼ぶ時は秘書官を通していましたが、私は運輸大臣に連絡を取ったり文書を用意したことはない。そもそも全日空とロッキード社の民間の取引でしたから」
事件がなければ日本社会の姿は今と違っていた
事件は結果的に日本の政治や司法を大きく歪めたともいわれる。小長氏は事件がなければ日本社会の姿は今と違っていたかもしれないと語る。
「田中さんが失脚していなければ、総理に復帰して日本列島改造を強力に推進し、もっと早く全国に展開していったと思います。高速道路や新幹線などのインフラを整備して工業を全国に再配置し、東京一極集中から地方に人を戻す。田中さんは『全国どこに住んでいても、一定以上の生活ができるようにする』とビジョンをよく語っていた。
現在、地方の衰退は著しく、地方創生が政治の大きな課題になっていますが、田中さんは半世紀も前にその是正に取り組んだ。もし、ロッキード事件がなく、田中さんのビジョンが実現していれば、地方の姿も、日本社会の少子化や高齢化も現在とは違っていたかも知れません」
取材・文/武冨薫
※週刊ポスト2026年5月8・15日号