「反社や」「黙秘を人のせいにするな」…最高検が「不適正」認定の取り調べ映像、国が東京地裁に証拠提出

東京地検特捜部検事の違法な取り調べで精神的苦痛を受けたとして、会社社長が国に損害賠償を求めた訴訟で、最高検が「不適正」と認定した取り調べの映像を、国が東京地裁に証拠提出していたことがわかった。社長側は法廷で再生するよう求め、提出された映像を一部抜粋して8日、同地裁に証拠として提出した。公開の法廷で再生されれば異例で、特捜部の取り調べのあり方が改めて問われそうだ。
特捜部は2021年5~7月に詐欺容疑などで逮捕・起訴した太陽光発電関連会社「テクノシステム」(東京)社長の生田尚之被告(52)(1審で懲役11年の実刑判決、控訴中)を41日間、計約205時間にわたって取り調べた。特捜部が逮捕した容疑者は取り調べの全過程の録音・録画が刑事訴訟法で義務づけられ、映像が残されている。
国賠訴訟で社長側は、取り調べを担当した男性検事(57)(現在は大阪高検検事)から、「反社(反社会的勢力)」と言われるなど違法な取り調べを受け、人格権や憲法が保障する黙秘権を侵害されたと主張。国に取り調べの映像を証拠提出するよう申し立てた。
当初、国側は「事件関係者の名誉やプライバシーへ不当な影響が生じる懸念がある」などと難色を示していた。同地裁が映像を調べる必要があるとの考えを示したことから、今年3月、それに応じる形で証拠提出した。同地裁が法廷で再生するかどうか判断する。
最高検は22年、男性検事による取り調べを、侮辱的な発言や威圧的な言動などがあったとして「不適正」と認定した。
「黙秘を人のせいにするな」。東京地裁の国賠訴訟の記録や関係者によると、取り調べの映像には、検事が取調室で、黙秘している生田被告を大声でどなる場面が収められている。被告が「してません」と否定すると、「したやろが」と再び大声を出していた。
検事が「検察庁を敵視するってことは反社や、完全に」と発言したり、「責任を取りたくないという、人間の醜いところが凝縮された感がある」と述べたりする場面もあった。
国側は同地裁に提出した書面で、侮辱的とも指摘され得る発言が見られ、黙秘している対象者に声を荒らげることは相手を萎縮(いしゅく)させかねないとした上で、「改善指導を要する面があったことは否めない」と言及した。
一方、「反社」などと発言したことについて「罪責を自覚させるためだった」とし、「口調が厳しくなることもやむを得ない場合がある」などと主張。「取り調べ全体でみれば、反省を促し、真実を供述するよう説得する一環だった」とし、違法とは言えないと反論している。
法務省訟務局は、映像の証拠提出について「個別事案に関わることで、回答を差し控える」としている。
この取り調べを巡り、社長側は検事を特別公務員暴行陵虐容疑で刑事告訴したが、東京高検が3月に不起訴(嫌疑不十分)とした。これを不服として、刑事裁判を開くよう求める付審判請求を行っているほか、検察審査会にも申し立てている。
大阪の訴訟が影響か
特捜部検事による取り調べは、19年に大阪地検特捜部が摘発した業務上横領事件でも問題となった。不動産開発会社「プレサンスコーポレーション」元部長(有罪確定)の取り調べで、検事が机をたたき、「検察なめんな」と発言。事件で逮捕・起訴され、無罪が確定した同社元社長が国家賠償を求めた訴訟で、この際の録画映像が法廷で再生された。
国側はこの訴訟で、録音・録画データについて「元部長のプライバシーを侵害することになる」として提出を拒否。だが、大阪地裁が、データには検事の口調や動作が客観的に記録されているとして、提出を命じ、最高裁もこれを支持して確定した。
東京地裁の国賠訴訟で、国側が裁判所の命令を受けることなく映像の提出に応じたのは、大阪の訴訟を巡る司法判断が影響したとみられる。大阪の訴訟では、賠償請求自体は棄却され、元社長側が控訴している。