進む「米中接近」迫る日本の「頭越し外交」の危機、高市首相の対中強硬姿勢が大きな外交リスクに発展する

アメリカのトランプ大統領が2026年5月13日に中国・北京を訪れ、翌14日、習近平国家主席との首脳会談に臨んだ。イラン情勢への対応、台湾問題、米中の経済・貿易関係などが話し合われ、意見の対立もあったが、首脳同士の対話によって両国関係には一定の前進がみられた。
これに対して日本は、安全保障でアメリカ、経済で中国にそれぞれ依存するが、トランプ大統領は「同盟よりディール」を掲げて、日米同盟に重きを置かない。中国は高市早苗首相の「台湾有事なら自衛隊出動もありうる」発言以来、対日批判を強めている。日本の頭越しで米中が接近していくという「悪夢」さえちらつく。
■米中「建設的な戦略的安定関係」を築くことで一致
アメリカ側によると、5月14日の首脳会談ではイラン問題をめぐって、両国がイランの核兵器保有には反対し、ホルムズ海峡の開放をめざすことで一致したという。中国側は「中東問題を話し合った」とだけ説明している。
台湾問題では、習近平氏が「もっとも重要な問題であり、処理を誤れば深刻な対立に至りかねない」などと指摘し、アメリカ側にくぎを刺した。トランプ氏は明確な対応を示さなかったとみられる。
経済・貿易関係では、アメリカ側が中国によるアメリカ産農産物の購入や対米投資の拡大を訴えた。
さらに両首脳は「建設的な戦略的安定関係」を築くことで一致したという。中国側によると、「相違点があっても管理可能な常態的な安定、平和が見通せる持続的な安定」を意味するという。首脳会談では、トランプ氏がイラン問題や経済・貿易関係で中国側に「お願い」を重ねたのに対して、習近平氏が台湾問題で「攻勢」に出たという両国関係の現状が浮き彫りになった。
中国は今回の首脳会談に先立って、活発な外交活動を繰り広げた。
相次いで北京を訪れたイギリス、フランス、ドイツ、カナダなどの首脳と習近平国家主席が会談。イラン戦争をめぐっては、王毅外相が中東各国を歴訪したほか、イランのアラグチ外相を北京に招き、王毅外相との会談でアメリカへの対応策を話し合った。
一連の外交の目的は、アメリカの影響力の低下を確認することだ。アメリカは国際政治の分野では、国連憲章に明確に反するイランへの先制攻撃に踏み切ったことから、国際社会の信用を失った。トランプ大統領の関税政策や国連の関係機関からの離脱も、各国の失望を招いている。
■中国はアメリカの影響力の低下を確認していた
安全保障面では、当初は短期間で決着させるつもりだったイラン戦争が長引き、多くの艦船の中東方面への展開やミサイルの消耗などで、東アジアのアメリカ軍の抑止力は著しく低下している。
経済面でアメリカは、イラン戦争によるガソリン価格の高騰など物価高が止まらず、庶民の不満が募っている。イラン戦争による戦費調達で財政悪化の懸念も強まっている。11月の中間選挙を控えて、トランプ氏は政権の実績づくりのためにも、アメリカ産の大豆やトウモロコシの輸出やボーイング社の航空機の購入を中国に陳情する立場となっている。
こうしたアメリカの「弱み」に付け込む形で、中国側が突き付けたのが台湾問題だ。アメリカは従来、台湾の独立について「支持しない」との立場を取ってきた。中国としては、さらに踏み込んで「反対する」「認めない」という見解を引き出し、台湾の孤立を図りたいのが本音だ。
首脳会談でトランプ氏は台湾問題でこれまでの立場を大きく変更することはなかったが、中国側は今回の会談をきっかけに、台湾問題でさらに攻勢を強めていくだろう。
そこで、日本である。台湾問題をめぐっては、第2次安倍晋三政権下(在任2012~20年)で成立した安全保障法制に基づき、台湾有事を想定した自衛隊とアメリカ軍による共同訓練が重ねられてきた。
中国軍も対抗する形で台湾周辺での大規模な軍事訓練を続けてきた。その一方で安倍氏以降、歴代の首相は「台湾は中国の一部」とする中国への配慮から台湾有事への具体的な言及は避けてきた。
■高市発言の大きすぎる余波
ところが、高市首相は25年11月の衆院予算委員会で立憲民主党(当時)の岡田克也氏の質問に対し、台湾有事の際、中国が「戦艦を使って武力行使も伴えば、存立危機事態になりうる」と答弁。台湾有事で自衛隊出動の可能性を示したもので、歴代の政府見解を踏み出す「慎重さを欠く不用意な発言」(自民党幹部)だった。
中国は激しく反発し、日本への観光自粛や日本のタレントによる公演の中止などが打ち出された。さらに高市政権について、防衛費増額や武器輸出の解禁などを指摘して「新型軍国主義」と批判。レアアースの対日輸出規制も示唆している。
高市首相の発言から半年が過ぎた。高市氏の発言なのだから、高市氏自身が収拾に動かなければならないが、その動きは見られない。この間、閣僚同士の接触もなく、日中関係は急速に冷え込んでいる。
一方で高市首相は26年3月の日米首脳会談で、トランプ大統領を「世界に平和と繁栄をもたらすはドナルド(トランプ大統領)だけだ」と持ち上げるなど、アメリカとの親密な関係構築に躍起となっている。
日本にとってアメリカは唯一の同盟関係、中国は最大の貿易相手国だ。日米同盟が強化に向けて進み、中国との対話は途絶えている中で、台湾問題でアメリカが中国に押し込まれようとしている。本来なら日本が米中の間に立って、緊張緩和に動くべき局面だが、高市首相の発言で動きが取れないのが実情だ。
習近平氏はトランプ氏の招待を受けて26年9月にアメリカを訪問・会談するのをはじめ、同年11月には中国・深で開かれるAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議や、12月にアメリカ・マイアミで開催されるG20首脳会議でも米中首脳会談が想定される。
■米中接近という日本外交の試練
一連の会談で、中国側は台湾問題でさらに攻勢を続けるとみられる。経済や貿易のカードを使って、トランプ氏に秋波を送る反面、高市首相への批判はさらに強めるだろう。そのことで「日米分断」を図るのは間違いない。
高市首相は、中国との対話の糸口が見いだせない限り、トランプ大統領に対し「中国に近づきすぎないように」とすがりつくしかない。「同盟よりディール重視」のトランプ氏が、それをすんなりと受け入れるとは限らない。「日本頭越し」の米中接近は、日本外交にとって深刻な試練である。
高市首相は5月15日夜、米中首脳会談の帰途のトランプ大統領と電話で会談。「中国をめぐる諸課題を中心に意見交換した」という。ただ、電話会談は15分間で、首脳会談の中身について突っ込んだ意見交換ができたとは思えない。高市首相の台湾有事発言をめぐる事態の打開策が見えてきたわけでもない。
(星 浩:政治ジャーナリスト)